第71話 影の正体
「ハルカ?」
クルビスさんの呼びかけにハッとして、今思い出したことを言うべきか考える。思い出したことをだらだら言っても仕方ないからだ。
確かにあの大きさには驚いたけど、ここでは当たり前の生き物かもしれないし。
(でも、私が体験した朝の森の様子でもあるし、あの生き物がなんなのか気になるし…。)
義務感半分、好奇心半分で言うことにする。
森の生き物だった場合、その行動が気温の影響によるものだったら報告する必要があるだろう。
「えっと、今思い出したんですけど、ポムの実のある辺りで1度強い風が吹いたんです。
それは大きな生き物が森の上を通ったから起きたものでした。
木の間から少ししか見えなかったので、どんな生き物かはわかりませんでしたけど、銀色の鱗が見えました。」
思い出したことを順番に報告する。余計な情報が混じらないように事実だけを話す。
すると、クルビスさんが顔を強張らせた。何かマズいことでもありましたか?
「ハルカ。その生き物は空を飛んでいたんだな?」
「ええ。すぐに向こうに行ってしまいましたけど。」
クルビスさんの問いに答えながら、進行方向の空を指す。あっという間に飛び去っていった影。
一瞬暗くなって、その後すごい風が吹いた。あれはとても大きな生き物だ。
思い出したからか、急に寒くなって腕をさする。すると、クルビスさんがまたギュッとしてくれた。
不思議なことにクルビスさんにギュッとされると落ち着いてくる。他の場所じゃ恥ずかしくて仕方ないけど、今はもう少しだけこうしていて欲しい。
「…悪かった。俺の魔素に充てられたな。」
えっ。魔素に…って、さっきの寒気ですかっ?
ええっ。あれ魔素の影響だったのっ?
(うわ~。すごく影響が出るんだな。じゃあ、さっき落ち着いたのって…。)
「もう落ち着いたみたいだな。気分はどうだ?」
「えっ。あ。落ち着きました。…魔素ってそんなことも出来るんですか?」
疑問に思って聞いてみる。
魔素が重要なんだってことはわかってたつもりだけど、他人に直接影響与えられるなんて知りませんでしたよっ?
「ああ。相手によるがな。ハルカは俺と相性が良すぎる。」
あ、相性って…。そんないろいろ含んだ感じの吐息と一緒に言わないで下さいっ。どうしろっていうんですか。
と、とりあえず、今のお話しでわかったのは、私はクルビスさんの魔素に影響されやすいってことだ。
(じゃあ、私、クルビスさんから離れた方がいいんじゃ…。)
こんなに影響が出るって良いことじゃないよね?
降りることを提案しようとすると、クルビスさんがまたそのまま進み始めた。
「あの、クルビスさん…。」
「ハルカの見た影は…。」
私が止めようと話しかけたのと、クルビスさんが話し始めたのが同時だった。
すみません。お先にどうぞ。何か気になることをおっしゃってましたよね?私が促すと、クルビスさんが続きを話し始める。
「…ハルカの見た影は、おそらくドラゴンだ。」
…今何て?




