第70話 切り株と目印
クルビスさんに抱えられながら進むと、切り株のところまでやってきた。
この切り株のおかげで進む気力が出たんだよね。
「ここで一休みしたんです。切り株があるから、町か村くらいはあるんじゃないかって安心して。」
切り株を指し示しながら説明する。ここに腰かけて休憩とったんだよね。
クルビスさんが切り株に近づく。特に変哲のない切り株でしたよ?
「…新しいな。」
「ええ。だから、近くで今も使われている集落があるんじゃないかって思ったんです。これが無ければ、途中で動けなくなっていたと思います。」
そう言うと、クルビスさんが私を抱える腕に力を込める。なんだか、ギュっと抱きしめられてるみたいで照れるんですけど。
「…よかった。」
クルビスさんのつぶやきが聞こえる。
大げさ…じゃないですね。私、死にかけてたんですし。
クルビスさんに出会う直前は疲れてて、水欲しさに歩いてただけだったから。
その気力だって、この切り株がなければ続かなかったと思うし。
「…はい。あ、この枝です。私が目印に葉っぱを刺したのは。ここまでのは外れちゃってたみたいですね。」
枝の先に引っかけただけだったからなぁ。最初はしっかり刺してたけど、途中から惰性になってたし。
ちょっと強めの風でも吹いて外れたんだろうな。
…強めの風?何か思い出しそうな…。
出てこないや。ま、順番に思い出してるし、進んでるうちに思い出すでしょ。
「これか。わかりやすくていいな。しかし、ハルカの話だと乾燥していたんだろう?よく刺せたな。」
「最初はつかむだけで割れちゃいましたけど、下の方の落ち葉はちょっと湿ってましたから、それを軽く刺したんです。」
そう説明すると、クルビスさんは納得したみたいだった。
クルビスさんがさっき説明してくれたけど、落ちたばかりの葉っぱは乾燥していて音が軽いんだよね?たぶん、最初につかんだ葉っぱは落ちたばかりの葉っぱで、枝に刺したのは以前に落ちてた葉っぱなんだと思う。
「軽くしか刺してませんから、風で落ちてるのが多いかも。」
奥の目印が大事なんだけどな。最初の頃のは結構しっかり刺してたから持つと思うんだけど…。
ちょっと心配になってきた。真っ直ぐ進んできたから道がわからないってことは無いと思うけど。
「大丈夫だろう。この辺りは地形の関係であまり強い風は吹かないからな。」
(えっ。でも、途中で強い風が吹いたけど。だから、上着をまた羽織って…。)
記憶と聞いた情報の差に疑問が出る。急に寒くなったから、脱いだ上着をまた羽織ったんだもの。記憶違いではないと思う。
…急に?何で…。
「あ。」
「どうした?」
思わず声に出してしまった。でも、思い出したんだよね。
急に寒くなる前、暗くなったこと。そして、木々の間から見えた輝く銀色の「鱗」のこと。




