第69話 ひよこはヒナ
「…ああ、そうか。ヒナも最初のうちは小さかったな。ほとんど見ることが無いから忘れていた。」
「ヒナってさっき言った…?」
クルビスさんのつぶやきを聞いて聞き返す。
ひよこもどきって何かの動物のヒナなんだ。やっぱりひよこだ。
「ああ。セパという。成体はかなり大きくて、背中に乗って移動したり荷物の運搬に使われる。ハルカが見たのは手に持てる大きさだったんだろう?」
ええ。思わずカバンに入れてお持ち帰りしたくなるサイズでした。
背中に乗るって、ずいぶん大きくなるんですね。なんか馬みたいだなぁ。
「ええ。ポムの実と同じくらいの大きさでした。だから、最初は果物がなっているのかと思ったんですけど、動き出したから驚いてしまって。」
ひよこもどき…じゃない、セパだっけ?を、初めて見た時のことをクルビスさんに話す。
すると、クルビスさんが目を見開いて驚く。
「それはずいぶん小さいな。おそらく生まれたてだろう。野生のセパはこの辺りにはいないはずなんだが…。」
と言って、考え込んでしまった。
生まれたてかあ。可愛かったもんねぇ。
…それにしても、さっきから立ち止まったままなんだけど、いいのかな?
クルビスさんがすごい速さで移動してくれたから、かなり奥に来たとは思うんだけど。
「…あの、止まってしまっていいんですか?」
気になって聞いてみる。
すると、クルビスさんは気が付いたようにこっちを見る。
「ああ。ここがハルカと初めてあった場所だ。ここまでの道のりでも魔素の様子に変化はないし、この場所も他と変わらないようだ。」
えっ。早っ。ここが初めて会った場所ですかっ。…全然わからなかった。
ポムの小道って同じような景色がずっと続くから、何処が何処かなんて見分けがつかないんですけど。クルビスさんよくわかりますね。
「ここが。もう着いたんですね。」
周りを見渡しながらつぶやくと、クルビスさんが楽しそうに言う。
「ああ。日暮れまでにはハルカが最初にいた場所を調査したいからな。少し急いだ。」
そうですよね。木の枝が陽射しをさえぎってる分、日が暮れ始めたらすぐに真っ暗になっちゃうでしょうし。
じゃあ、ここからは自分で歩きますね。調査開始ですっ。
…降りれない。クルビスさん降ろして下さい~。
クルビスさんは涼しい顔で私を抱っこしたまま歩いていく。何で?
「…言っただろ?日暮れまでにはハルカが最初にいた場所を調査したいと。ここに来るまで朝から歩き通しだったと言ってたな。悪いが、今から同じだけの時間はかけれないぞ。」
そうでした。5時間歩いたんだっけ。
確かに、今からそこまで時間かけてたら夜になる。
(えっと、確か、クルビスさんと会う前は同じ景色に飽きてたから、私が直接案内するようなものはしばらく無かったはず…。)
出会う前のことを順番に思い出していく。ポムの実の生る木の後は切り株と横道を見つけたくらいで、後は同じ景色が延々と続いていたんだっけ。
1本道だから私が案内するようなこともないし、クルビスさんとじゃコンパスが違い過ぎて足手まといになりそうだし。
今もどんどん進んでるけど、結構なスピードだ。クルビスさんが普通に歩くとこんなに早いんだ。さっきは私に合わせてくれてたんだな。
(うん。しばらくはお願いしようかな。ポムの実のある場所に着いたら降ろしてもらおう。)
「…では、よろしくお願いします。」
クルビスさんに胸に手を当ててお願いすると、苦笑された。
「ああ。代わりと言っては何だが、周りの様子を見ていてくれ。少しでも変化があれば教えて欲しい。」
それならお任せ下さい。
ここから先は私しか見てないですし、しっかり観察しますよ。




