第66話 再び森へ
クルビスさんに手を引かれながら細い横道に入っていく。
さっきの道で目立ったせいか、もともとその予定だったのかは知らないけど、ちょっと横道に入っただけで静かになる。
少し進んだら右に折れ、また少し進んだら左に折れ…途中からどういう風に進んでいるのかわからなくなった。
これもはぐれたら絶対迷子になるなぁ。さっきは人ごみがすごかったけど、こっちは逆に聞ける人もいないわ、自分がどうやってここまで来たのかもわかんないわ…ちゃんとついて行こう。
急に怖くなって、クルビスさんの手をギュッと握るとクルビスさんが握り返してくれた。
大丈夫だって言われてるみたい。誰もいないから、ちょっとだけクルビスさんを見上げると目を細めて笑ってた。つられて私も微笑み返す。
そうやって何度目かの角を曲がると、前方が急に開けた。広い道だ。
広い道に出て、左に曲がると森の緑が目に入る。近道したんだ。
木製の橋の所に来ると、傍の建物から緑色のリザードマンが慌てて出てきた。
あ、ここに来た時に見たリザードマンだ。来た時は余裕なくてあんまり見てなかったけど、綺麗な新緑の緑色の鱗は印象に残ってたんだよね。
「隊長っ。すみませんっ。今ガソンさん出てて…。」
「ああ。さっき会った。手が足りてないんだろう?詰め所に戻っていいぞ。どうせ今日は俺たち以外にここの出入りはないだろうしな。」
「はい。あの、こちらの方は…。」
さっき会ってるからいいよね。顔を上げて真っ直ぐみながら胸に手を当てて微笑む。
緑色のリザードマンは私の顔を見て、クルビスさんの顔を見てハッと気付いたようだった。
「ああ。さっき保護した女性だ。回復が早くてな。これから森の再調査に行くんだが、一緒に来てもらうことになった。ただし、彼女のことは他言無用だ。彼女が今ここにいるのは、隊長・副隊長までしか知らないことになってる。いいな?」
「了解しましたっ。」
緑色のリザードマンは胸に手を当てて真っ直ぐクルビスさんを見ながら答えた。
あれ、やっぱり敬礼なんだ。すごくビシッとした感じがするし、さっきも女神さまがしてたもんね。
「じゃあ、行ってくる。」
「いってらっしゃいませっ。」
クルビスさんが声をかけると緑のリザードマンが敬礼して見送ってくれる。
私も手を振って行ってきますとご挨拶。緑のリザードマンはちょっと驚いた顔をしてたけど、すぐに微笑んで手を振ってくれた。
橋を渡る時、街と森の間に深い堀があるのが見えた。堀があったんだ。
…来る時は担がれてたからなぁ。あんまり周りの様子見れてないんだよね。
綺麗な堀で、白い水が街側の壁から勢いよく出ていた。噴水みたい。
注がれる水に光が反射して軽く虹がかかってるんですけど…ホントに堀?イメージ違うなぁ。
水も溜まってるんじゃなくて流れてるみたい。もしかして川なのかな。
天然の川を利用して堀に…あり得るよね。
そんなことを考えてるうちに森の入口に到着。…担がれて来たその日にまた来ることになるなんて、この街についた時は思いもしなかったなぁ。言葉がわかんなくて不安しかなかったのに。
天然のアーチが続く先を見ながらこの場所に来た時のことを思い出していると、クルビスさんに声をかけられた。
「ハルカ?…大丈夫か?」
え?大丈夫ですけど…。
あ、私がボーっとしてたから、心配かけちゃったのかな。
「大丈夫です。」
大丈夫って言ったのに、クルビスさん納得してない感じだ。
しょうがない説明するか。たいした理由は無いんだけどなぁ。
「…なんだか不思議だなって思って。ここに来た時は言葉もわからなかったのに、クルビスさんに会って、フェラリーデさんに会って、言葉もわかるようになってまたこうして戻ってきてるなんて…1人で歩いていた時は思いもしなかったものですから。」
午前中は不安を抱えながらただひたすら歩き続けていた。今日中に水だけは確保したいって思ってたんだよね。それが水どころか当座の寝床まで確保出来たし。クルビスさんのおかげです。
クルビスさんに感謝しながら微笑むと、何故か目を逸らされた。…もしかして、照れてる?
「~っっ。ハルカっ。昼に会った場所まで一気にいくぞ。ハルカの足では時間がかかるから、俺がそこまで運ぶ。」
えっ。また担がれるんですかっ?
あれ苦しいし怖いから嫌なんですけど。
顔に出てたのか、クルビスさんが苦笑する。つないでいた手を離して両手を差し出してきた。
…えーと。これはもしや…あれですか?
クルビスさんの手を見て顔を見ると頷かれた。やっぱりですか。
お姫様だっこ再びなようです。




