第7話 コミュニケーションは目ヂカラで
私は喉がカラカラだった。
トリップ前と比べてこっちでは気温が10℃くらい上がってるし、その中で5時間も歩いてヘロヘロだ。
上着はあれからまた脱いで、畳んでカバンの中に入れてある。
手持ちのペットボトルでは、到底水は足らなかったけど、万一に備えてチビチビと舐めるように飲んでいた。ここで水が確保出来れば、すごく助かるんだけど…。
期待に満ちた目で彼を見る。
「♪$#○+<☆$2%#?」
彼が何かを言った。たぶん。
複雑な発音で聞き取れない。
向こうの言葉がわからなかったってことは、こっちの言ってる言葉もわからないんだろうなぁ。困惑した感じが伝わってくる。
(あ〜、やっぱり…。)
私は落胆しながらも、納得していた。
異世界トリップでは、言葉が通じる場合と通じない場合がある。
前者は、だいたい神様やら召喚の魔法陣やらの超自然的な影響で、主人公には最初からこの能力が用意されている。
後者は、主人公がいきなり異世界に行った場合で、主人公が世界にとってイレギュラーな存在であることが多い。
あくまで、私の浅いラノベ知識からの独断と偏見だけど。
ちなみに、チートはこの中には入れてない。だってチートだもん。
…私の場合、来たときの状況から考えて、何となく後者なんじゃないかなぁと思っていた。
穴には落ちなかったけど、森の中に放り出されてた時点で十分詰んでるし。
しかも、今対面してる相手はリザードマンだ。
身体の構造が違うなら、尚更言葉は通じないだろう。
(仮説が証明されたっていう訳ね。当たっても全然嬉しくないけど。)
ちなみに、落胆しながらも彼の目を見続けている。
「目は口ほどに物をいう。」という昔の人の偉大な言葉を胸に、水が欲しいと目で訴えてみる。
(今こそ、私の渾身の目ヂカラを発揮する時!)
…と思った瞬間、視界が回った。
どういうことかって?
私が聞きたいよ。お腹が圧迫されてとても苦しい。
落ち着かない状況で、自分を客観的に捉える努力をしてみる。
結論。私は今、彼の肩に担がれているようです。
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担がれてから数分後、やっと彼が降ろしてくれた。
(怖かった〜。安全装置無しのジェットコースターってこんな感じかな?まぁ、途中で目を瞑ってたけど。)
彼は来た時と同じく、凄いスピードで元来た道(私の進行方向だった)を引き返し、あっと言う間に天然アーチを抜けた。
私は景色の流れに酔いそうだったので、途中から目を閉じていた。
乗り物には弱いんです。
視界が明るくなって目を開けると、アーチを抜けてすぐに大きな橋が見えた。
彼はその頃には普通に歩いていたけど、私は担がれたままだった。
彼はそのまま橋を渡って、渡った先にいた緑色のリザードマンと何かをしゃべった後、広場みたいな場所に出ると降ろしてくれた。
降ろす時は、そっと降ろしてくれました。
身体がふわっと浮いたみたいだった。
紳士だなぁと感動するが、すぐに思い直す。
…紳士は担がないよね。