第62話 クルビスさんは隊長さん
そのまま進んで行くと、クルビスさんがいきなり立ち止まった。ふぎゅっ。
いきなりだったから止まることが出来ず、私はクルビスさんの腕にぶつかる。
「っ。すまない。大丈夫か?」
小声でクルビスさんが謝ってくれる。
おでこがちょっと痛いけど、特にケガもないので大丈夫だと頷く。
「クルビスの旦那ぁ。旦那に会えるたぁ縁起がいいや。見回りですかい?ご苦労さんです。」
だみ声に顔を上げると、そこにはごつごつした岩みたいな顔のおじさんがいた。
声からしてたぶんおじさん。このおじさんもリザードマンなの?見えないなぁ。
私がいきなり現れたおじさんに面食らっていると、クルビスさんが手を離して身体で私を隠してくれた。
しまったっ。上向いてたっ。
急いで下を向いて、クルビスさんの後ろに隠れる。
クルビスさんは大きいから、相手から私は見えないだろう。
「ああ。賑わってきたみたいだな。」
「ええ。昼から一気に増えやした。揉めねぇようにこっちでも見回ってまさぁ。今んとこ、問題ありやせんがね。…にしても、こんなこたぁ初めてでさぁ。大丈夫なんですかねぇ?」
おじさんのだみ声が響いて、周りが注目してるのがわかる。
勘弁して下さい。せっかくここまで目立たずに来たのに。
「原因は今調査中だ。このまま気温が上がり続ければ大丈夫らしいが。」
クルビスさんはいつも通りに話してる。
変に周りを警戒してもかえって目立つもんね。
私もクルビスさんの後ろにいるけど、あまり縮こまらないでおこう。
普通に後ろに立ってればいいや。
「そうですかぃ。たいぶ暖かくなりやしたが、まだちぃと涼しいですかねぇ。このまま戻ってくれりゃあいいんですが。」
…これで涼しいんだ。じゃあ、朝の気温って有り得ないことだったんだなぁ。
世間話でこういう話が出てくると、今朝の異常気象っぷりがよくわかる。
「そうだな。…詰め所で陽球の治療を始めているのは聞いているか?」
「聞いておりやす。ありがてぇことで。うちの若いもんも幾つか行かせてまさぁ。うちにも陽球はありやすが、いかんせん数が足りねぇもんで。」
治療ってフェラリーデさんが言ってたやつかな。
ようきゅうってなんだろう。大事そうな話してるからおとなしくしとくけど。
ヒマだからちょっとだけ顔を上げたりして周りの様子をうかがう。
周りはクルビスさんたちを避けていってくれてるけど、皆振り返っていく。クルビスさんみたいに黒一色って珍しいって言ってたから、目を引くんだろうな。
顔をあまり上げられないから確かじゃないけど、女性がよく振り返っているような…。
街の女性って私みたいなワンピースや巻きスカート姿が多くて、さらに頭に花飾りをつけてるから、振り返るとすぐにわかるんだよね。
ちなみに、男性は袖なしにハーフパンツ姿。異種族の見た目に関してはほとんどわかんないけど、ヒト型のエルフや獣人の性別くらいはわかるから、その人たちの恰好で男女の服装がわかった。
男女で恰好が違うから、他の種族でも男女を見間違えるってことはなさそう。
しかし、やっぱりクルビスさんモテるんだなぁ。女性たちがクルビスさん見ながらキャッキャ言って通り過ぎて行くし。なんでフリーなんだろう。
(クルビスさんって周りと比べても体格いいし、シュッとしててカッコイイもんね。リザードマンの美醜はわかんないけど、クルビスさんがカッコイイっていうのはわかるかな。)
そんな風に周りを見てて気づいたんだけど、どうもこの街にいるのはエルフとリザードマンだけじゃないみたい。
ヒト型の獣人はもちろん頭が獣のタイプの獣人もいるし、半漁人っぽいタイプやブタさんっぽいタイプ、カメレオンみたいに目がギョロリとしたタイプもいて、いろんな種族がいるのがわかる。
1番目につくのは、クルビスさんみたいな大きな尻尾のある鱗で覆われたタイプだから、最初に私がリザードマンの街だって思ったのはそんなに外れてなさそう。
周りの様子をさりげなく観察してたら、こっちのことを話しているらしい声が聞こえてきた。
「なあ、あれクルビス隊長じゃね?」
「ほんとだ。話してるのはビドーさんだな。何話してんだろ?」
「市の様子聞いてんじゃねえの?こんなこと初めてだもんよ。」
声はそのまま過ぎ去っていく。通りすがりの世間話だろうけど、聞き捨てならない単語が聞こえた気がする。
クルビス隊長?クルビスさんって隊長さんなのっ?




