第57話 聞くのも大事
「シードさんって副隊長さんなんですね。偉い方なのに気さくだなって思って。」
尻尾をジロジロ見てましたなんて言えないから、他のことを聞く。
副隊長って聞いてびっくりしたし。
「偉いと言えば偉いが、副隊長は各守備隊に3つずついるぞ?」
えっ。3つって3人?2番目に偉いってわけじゃないんだ。
どういうことだろ?
私が疑問でいっぱいのまなざしで見ると、クルビスさんは何かに気付いたように軽く頷いた。
「ああ。そうか。言ってなかったな。ここはルシェモモの北地区の守備隊本部だ。守備隊というのは街の治安と状態を良好に維持する役目がある。」
守備隊かぁ。警察ってことだよね。
街を守る隊ってかっこいいな。
「守備隊は戦士部隊、治療部隊、術士部隊の3つから成り立っている。それぞれに隊長と副隊長がいるんだ。」
クルビスさんが指を3つ伸ばして説明してくれる。
3つの部隊に分かれるんですね。それで、隊長さんと副隊長さんがそれぞれいるから、さっきの3人ずついるって話になるんですね。
クルビスさんの説明に頷きながら、頭の中で整理してみる。
3つの部隊は戦士部隊と治療部隊と、…術士部隊だっけ?
(戦士…は戦うお仕事で、治療はさっき私が受けたやつだよね。術士ってなんだろう…。)
「あの、すみません。術士って何ですか?」
「ああ。すまない。ハルカの世界には術士はいないのか。」
クルビスさんがハッとしたように言う。
ええ。いません。なんとなく想像つきますけどね。
(たぶん、ラノベで言う魔法使いとか魔術師って呼ばれる人たちのことだよね。)
魔素があれだけ説明に出てきたんだもん。
それに関する仕事があっても不思議じゃない。
「術士というのは…。ここで立ち話も良くないな。移動しながらでいいか?」
あ。そうですね。調査に行かなきゃいけませんし。
クルビスさんに頷いて外してたフードを被り直し、また手を引かれながらシードさんが消えた入口に向かう。
「術士というのは、魔素を操って個体や周りの自然物に干渉する者たちのことだ。」
魔素を使って生物や自然物に干渉する…魔法使いだよね。
でも、どうやって?
「その干渉する方法として術式がある。魔素を込めた特別な音「術」と同じく魔素を込めた特別な文字「式」を使って魔素に干渉し易くする。その術式を操るから術士と呼ばれているんだ。」
「術」と「式」で術式かぁ。わかりやすくていいなぁ。
特別な音と文字を使って…ますます魔法みたいだ。いろいろ出来そう。
「…まあ、俺も術士じゃないからな。詳しくはリードに聞いてくれ。
そうだな。例を挙げると、今朝なんかは術士部隊が水の術式を使って動けない隊士たちの身体を温めてくれた。」
トカゲさんを温めた…治療したんだな。やっぱり、術士って魔法使いだ。
術式っていうのが魔法にあたると…うん。それならわかりやすい。
「じゃあ、空気に干渉して涼しくしたりも出来るんですか?」
要は冷房のことなんだけど。自然物に干渉するなら空気中の水分なんかも操れそうだし。
まあ、魔法の感覚で聞いてるから、実際は出来ないかもしれないけどね。
「ああ。出来る。…理解が早いな。」
クルビスさんが驚いたように目を見開いてこっちを見てくる。
出来るんだ。じゃあ、いきなり部屋を冷やしたりとか出来るのかぁ。便利だなぁ。日本だと、冷房かけるなら機械がなきゃ無理だし。
「私の国でも電気を使って部屋を冷やしたり温めたりしますから。他にも魔法っていう…ええと、術式?というものに似たものがあって、それは今ではおとぎ話にしか出てこないものなんですけど、呪文っていう決まった言葉を使うとことか良く似ているんでわかりやすいんです。」
似ていると思うんだよね。違うとこといえば、魔法じゃなくて、術式っていうものを使って現象を起こすってことくらい。
知ってるものと似ていたら理解も早いってだけです。お話やゲームの中では魔法使いが大活躍してるし。
「…そうか。そういえば、ハルカの国では雷を使った技術が発達しているんだったな。それなら、魔素を操る感覚と似ているかもしれない。」
頷きながら、クルビスさんが言う。
私には魔法の方がイメージし易かったけど…まあ、科学も魔法みたいなもんかな。
(昔の人から見たら、今の世界って魔法の世界だもんね。元素を操るって意味では魔法も科学も同じようなものかも。)




