第56話 名前は大事
「いや、関係ないようだ。調査を優先して切り上げたからな。まだ話の途中なんだが…それに関してはどうも違うみたいだ。」
私の視線に気付いて、クルビスさんが代わりにシードさん言ってくれる。
ありがとうございます。
でも、関係って何のこと?後でクルビスさんに聞いてみようかな。
「ジー様」って、名前かな?それともお爺さんってことかな?
(どっちかって言うと、お爺さんっぽかったよね。でも、どこのお爺さんなんだろ。)
今聞くのは良くないよね。
これも後で聞いてみよう。教えてくれるかわからないけど。
「ホントかよ?ま、どっちにしろ嬢ちゃんは知らねえか。」
また、「嬢ちゃん」って…。名前で呼んでくれないかなぁ。ホント、いくつに見られてるんだろう。
別に腹立てる気はないけど、何歳くらいに見られてるのかは気になるなぁ。
「あの、遥加です。嬢ちゃんじゃありません。遥加と呼んで下さい。」
とりあえず、呼び方は訂正してみよう。
シードさんは私が口を挟んだのを面白そうに見てくる。
シードさんはクルビスさんより表情がわかりやすいかも。
口の端が上がってるし、目がランランとしてるから、たぶん、面白がられていると思う。
「ふーん。いいのか?」
何故かシードさんはクルビスさんの方を向いて聞いている。
呼んでくれないのかな。
「ハルカがそう言っているんだ。そう呼んでやればいい。」
そうです。名前は大事です。呼んで下さい。
コクコク頷きながらシードさんを見る。
「そうか。じゃあ、よろしくな。ハルカ。」
目を細めて挨拶してくれる。
なんだろ、微笑ましげに見えるけど…気にしないでおこう。
「はい。よろしくお願いします。シードさん。」
今度は胸に手を当てるだけで、シードさんの目を見て挨拶する。
これまでの感じだと、たぶん軽い会釈くらいならこれでいけるはず。
「礼儀正しいねぇ。さん付けなんて久しぶりだな。最近はいっつも副隊長って呼ばれるもんなぁ。」
シードさんが頭に手を置きながら苦笑して言う。
シードさん副隊長なんだ。じゃあ、偉いんだよね?っていうか、隊長職があるってことは、やっぱり病院じゃないんだな。ここ。
「確かに、今じゃ役職名で呼ばれる方が多いな。まあ、日が暮れるまでには戻るつもりだ。リードは残るから、何かあったらそちらに頼む。」
「ん。了~解っ。そんじゃ、俺は上に戻るぜ。嬢ちゃ…じゃなかった。ハルカも気を付けろよ?」
ひらひらと手を振ってシードさんが戻っていく。
名前に呼び直してくれた。律儀だなぁ。副隊長さんなのに気さくな感じだ。
クルビスさんを見ると片手を上げていたので、私も手を振って見送ることにする。
シードさんの尻尾って迫力あるなぁ。カーキ色に黒い模様がヘビみたい。なんか、動物園とかで見たことのある大きなヘビを思い出すなぁ。
「…ハルカ?どうした?」
クルビスさんが怪訝そうにこっちを見てる。
いえ。立派な尻尾に見とれてました。…なんて言えないか。




