第54話 クセって怖い
「何を見せないんですか?」
気になります。
教えてもらわなきゃ注意出来ません。
「…口を突き出すのは、誘っていると見られる。誤解されたくなければ、気を付けることだ。」
は?口?
…あ、唇のこと?
(やだ。またやっちゃった。)
自分が今どういう顔をしているか意識して、唇を突き出していることに気付く。
昔から不満があると唇を突き出すクセがあって、今でも偶に出てしまう。
変な顔になるから直せってお母さんに言われて、それからしないようにしてたんだけどまだ直ってなかったんだ。
…と言うか、今サラリとすごいことを聞いたような?
(さ、誘ってるって何っ?そんな風に見えてたのっ?)
理解したとたん、顔が熱くなる。
うわー。ますます恥ずかしいっ。
と、とにかく、誤解を解かないとっ。
「あ、あの。唇を突き出すのは、クセでして。別に誘うとかそういうのではありませんからっ。」
絶対しませんからっ。
大丈夫ですよっ。彼女さんに誤解とかされないように気を付けますからっ。
「…別に…いい。」
ぼそりとクルビスさんがつぶやく。
聞こえにくかったけど、何を言ってるかはわかった。
(いいって…何が?)
「付き合っている女はいない。だから、俺は気にしなくていい。」
意外…。クルビスさんモテそうなのに。
ここに連れて来てもらうまでのエスコートもすごく自然だったし、礼儀正しい感じがするし…そう、紳士だなぁって思ったんだよね。
(そういうのに女性って弱いと思うんだけど、この世界では違うのかなぁ。)
あ、でも、たまたま今フリーなだけかも。
そうだよね。
「…俺はいいが、他の男にはするなよ?」
え?…ああ、唇を突き出して誘うってやつですか?
だから、誰にもしませんって。
「…なら、いい。」
ん?約束したのに、なんか不機嫌そう?
何で?もうしませんよ?…確信持てませんか?
そりゃクセですから、知らないうちにってことはあるかもしれませんけど、知らない人に素が出るほど怒ったりしませんし。
誘ってるなんて話聞いた後じゃ、なおさら気を付けますよ。
「ああ。わかった。」
ホッ。何とか納得してくれたみたい。よかった。
落ち着いたのでまた目をつむろうとしたけど、思い直して今度は目を開けたままにする。
自分の手を見てればいいもんね。
周りの景色さえ見なきゃ目は回らないし。




