第53話 運ばれてます
ギュッと目をつむって、この状況をやり過ごす。
目が回ったのは本当だけど、お姫様抱っこされたまま平然とは出来ません…。
何も解決していない気もするけど、降りることも出来ないから仕方ない。
さっき暴れた時にわかったんだけど、クルビスさんってすごく鍛えてるんだよね。がっちり抱えられて、手足や首は動かせたけど他は身動きも出来ませんでした。
森を抜ける時も、私を軽々担いですごい速さで駆け抜けてたもんなぁ。
日本じゃここまで鍛えてる人ってほとんどいないよね。鍛え方が違うって感じ。
目をつむったのは、正直、どこ見てたらいいかわからないとか、クルビスさんの顔が近いとか、だからって階段を見てるとさらに目が回りそうだったからとか、理由はいろいろあるけど…。
1番気に食わないのはその楽しそうな目っ。
いや、リザードマンの表情なんて相変わらずわからないんだけど、目を見るとすごく楽しそうしてるなっていうのが伝わってくるんだよね。
たぶん、今の私は耳まで赤いと思うから、それが面白いのかもしれない。
でも、それを面白がられていると思うとすごくイラッとする。
クルビスさんが下してくれたら解決するのに~っっ。
不満はあるものの、ふらついたのも事実だし、運んでもらってる身で文句も言えないから目をつむってやり過ごしながら地下に向かっていく。
「…ハルカ?」
ひっ。耳元でささやかないで下さいってばっ。
何ですか?
目を開けてクルビスさんを見ると、クルビスさんもこちらを覗き込んでいたからぶつかりそうになる。
えっ。近っ。…何かありました?
「大丈夫か?気分が悪いなら、医務室に戻るか?…やはり無理があったか。」
えっ。いやいや。違いますって。
あなたが恥ずかしい運び方しなきゃこんなことになってませんから。
「っ。大丈夫ですっ。目をつむってたのは、これ以上目が回らないようにするためで…。」
…あれ?何だかクルビスさん嬉しそう。
もしかして…。
(心配してるふりして、私の目を開けさせようとしただけっ?)
あ。なんか今そうだって感じがした。ムカッ。
何ですかっ。面白がってるだけですかっ。失礼じゃないですかっ。
「…悪かった。もうしないから、そう怒るな。」
…ホントですか?絶対?
ウソついたら嫌ですよ?
「ああ。やらない。だからそんな目で見るな。」
そんな目?って、どんな目?
よくわからなくてクルビスさんの方を見ると、困ったような感じが伝わってきた。
「…他のやつには見せるなよ?」
いえ、あの、何を?
説明プリーズ。




