第6話 新しい出会い
疲れた足を引きずりつつ、気分だけは前向きに進んでいると、アーチの先、少しカーブしている所から何かが猛スピードで近づいてくるのわかった。
(えっ?早っ。何あれっ?)
私が突然の出来事にプチパニックになっている間に、それはどんどん近づいて、あっと言う間に顔がわかる距離まで来た。
咄嗟に口を抑える。そうでもしなきゃ叫んでたかもしれない。
でも、回らない頭がそれはマズイと警告してくる。
恐らく、猛スピードで近づいて来たのは、私の会いたかった『知的生命体』だ。
問題なのは、どう見ても人じゃなさそうってことかな。
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青みがかった黒い肌。スラリとした長身。鍛えているだろう逞しい体躯にそれを覆う黒いアーマー。
(えっと、何だっけ。確か、こんな特徴の種族が前読んだ本に出てきたはず…。
尻尾?が見える…。ということは、トカゲ?
そうだ!リザードマン!)
私の浅いラノベ知識から出てきた彼の種族は、リザードマンだった。
すでに、お互いの距離は2mくらいまで近づいている。
それ以上近づいて来ないのは、私を警戒してるんだろう。もっとも、さっきのスピードを見る限り、彼にとってこの距離は意味無さそうだけど。
不躾にならないように、素早く観察してみる。肌は鱗だろうか?キラキラして綺麗だ。
背が高い。2mはありそう。身長に負けない位鍛えた身体に、時折見える大きな尻尾が迫力満点。
顔はトカゲの特徴を残した人の顔って感じかな。ラノベのリザードマンとは違って、口はほとんど突き出していない。でも大きな口だ。耳まで裂けてる。
頭は小さめかな?結構小顔だ。いいなぁ。
…つらつらと彼の特徴をあげていったけど、余裕があるわけじゃありません。一種の現実逃避です。
(迫力が凄くて、息が止まりそう…。)
ヘビに睨まれたカエルはきっとこんな心境だろう。
(向こうからしたら、私の方が不審者だもんね。仕方ないかなぁ。
でも、ようやく出会えた知的生命体だし。意思疎通くらいはやってみなくちゃ。)
停止しそうな頭を何とか働かせる。
話しかけようと彼の目を見たとき、真っ直ぐな強い瞳に射すくめられて動けなくなった。
(〜っっっっ。何っ?
怒ってる?…ううん。違うかな。敵意向けられてる感じじゃない。)
一瞬パニックになるが、真っ直ぐな眼差しに支えられるように自分を建て直す。
そうすると、彼の目に敵意は無さそうだと感じる。社会人になってから人に接する機会は多かったから、相手が自分に向けている感情がどんなものかくらいはわかるつもりだ。
(…観察されてる?うん。そうだ。そんな感じ。こっちが見た分、向こうも見てるよね。
嫌だなぁ。腰回りは見ないで欲しい。)
思考がお腹の辺りにそれると、少し余裕が出たのか肩の力が抜けた。
同時に、彼の纏う雰囲気が柔らかくなる。
(今ならっ。)
話しかけるなら今だと感じ、つっかえながらも声を出す。
「あ、あの…。飲み水がある場所知りませんか?」
それが私にとって今1番知りたいことだった。