第52話 らせん階段は目が回る
「地下まですぐだ。俺が先に行くから、ハルカは後からついて来てくれ。」
クルビスさんの言葉に頷いて、手を放す。
ん?クルビスさん何か言いたそう…気のせい?
「いってらっしゃい。気を付けて。」
フェラリーデさんの言葉に、浮かんでた疑問も掻き消えて、慌ててクルビスさんの後を追う。
っと、その前に言わなきゃ。
「行ってきます。」
私の返事にふわりと微笑んでフェラリーデさんが見送ってくれる。
「行ってきます」なんて久しぶりに言ったなぁ。
なんかこれから普通にお出かけするみたい。
いや。調査に行くんですけどね。
でも、何でも前向きにお気楽に考えていこうって思ってるんだよね。
泣いてても何も始まらないし。
ホントはもっと怯えるもんだと思う。異世界なんて所に来たんだし。
でも、クルビスさんもフェラリーデさんも私を気遣ってくれて、命も助けてもらって、味方してくれそうで…。
こっちの質問にはきちんと答えてくれるし、身の安全の心配までしてもらってるし、お風呂まで借りちゃったし。
ラノベではありえないくらい恵まれた異世界トリップ。
そんな恵まれた状況で怯えてたら、すごく心配かけるだろうし、失礼だと思うんだよね。
だから、どんな状況になっても前向きに顔を上げていようと思う。
決めたんだ。
「…ハルカ?どうした?」
ん?クルビスさんがこっちを振り返って見ている。
何でもないですよ?
にっこり微笑んでみると、クルビスさんが止まった。
あれ?
「…本当に何でもないのか?」
ええと、ホントに何でもないんですけど、それだとクルビスさん納得しなさそうだよね。
どうしよっかな。っとと、ふらついちゃった。
下向いてぐるぐる回りながら降りてるからだろうなぁ。
目が回ったかも。あ、これだ。
「えっと、何だか目が回っちゃって。」
そう言うと、クルビスさんはフッを笑って私の所まで上がってきた。
何だろうと思っていると、フワッと身体が浮いたと思ったら、気が付いたら横抱きにされていた。
(こ、これは、俗にいう『お姫様だっこ』というやつでは…っ。)
ええっ。何で?恥ずかしいっ。
いや、誰も見てないけど、いやいや、誰かに知られることもないけど、いやいやいや、そうじゃなくて。
「あの、クルビスさん?私自分で降りれますっ。」
焦って声が上ずっているけど、そんなことに構っていられませんっ。
早くこの状況から抜け出さないとっ。
「この階段は慣れないものが使うとハルカのように目を回す。目的地に着く前に具合が悪くなっても困るからな。おとなしく運ばれてろ。」
ああ、やっぱり目を回す人いるんだ…って違うっ。
確かに具合が悪くなっても困りますけど、この階段さえ終わればすぐに治りますから。
だから、おーろーしーてー。
何、この羞恥プレイ。誰も見てなくても私が恥ずかしいんですっ。
ジタバタジタバタ
「こら。暴れるな。危ないだろう?」
だめだ、ビクともしない。
何?クルビスさんって鉄かなんかで出来てるの?
「ハルカ。」
うわ。耳元でその声で名前呼ばないでっ。
腰、腰に来るっ。
「おとなしく、していろ。…いいな?」
ひいい。わかりましたっ。
わかりましたから、そのバリトンボイスでささやかないでぇ。
こくこく頷いて、敗北を認める。
くそう。絶対面白がられてる。




