第5話 何処までも続く
バサササッッ
音に驚いて見上げてみたら、視界いっぱいに黒い影が見えた。
あまりに突然のことに驚きを通り越して固まってると、影が通り過ぎて行く。
影と共に、ゴォッと風が通り抜けた。
手で目を庇いながら、慌てて振り返ると、木々のすき間から日に輝く銀色が見えた。
「…何…今の…。」
呆然としていると、急に冷えたように感じてぶるっと震え、慌てて上着を羽織る。
(今のは何だったんだろう…。かなり大きかったよね?)
小型の飛行機くらいはあった。
…結構危ない世界かもしれない。
ヒヨコもどきに惑わされてる場合じゃなかった。
幸い、木々の天然アーチのおかげでこちらの姿は見つからなかったみたいだし、わからないものを考えても答えは出ない。
早くここから移動しよう。
水場も探さなきゃいけないし。
それだけを頭に、先を急いだ。
もちろん例の果物はもいでいったけど。
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更に進んで行くと、道が別れていた。
ほぼ正面に、今まで進んで来た道に続いている道が、右側に少し細くて曲がっていて先の見えない横道が続いている。
「よし。真っ直ぐ行こう。」
即決した。
…ん?ちょっとは考えろって?
いやいやいや、ちゃんと理由はありますよ?
横道の方は細くなってるんだよね。つまり、最初に私がいた場所みたいに、途中で獣道になる可能性があるってこと。
それなら、幅の広い方に進みますよ。こっちなら、人が通れる。
まあ、単に横道見た瞬間、最初にいた場所を連想して嫌だったってのが1番の理由だけど。それはしょうがないよね。
知らない場所にいるんだから、不安要素は極力減らしたいもんです。
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サクサクサクサク
サクサクサクサクサクサク
相変わらずの軽快な音を立てて、サクサク進んでいく。
…ダジャレじゃないからねっ?
他に表現のしようがないんです。ホントです。
こんな風に無駄なことを考えるのはヒマだから。
ヒヨコもどきを見た後は特に変わったものは見つからなくて、同じ景色が続く中をパリパリ落ち葉を踏み締めて進んでいくだけなんだもん。
ぶっちゃけ飽きた。
「ふうっ。」
思わずため息が出る。
途中に切り株があったから休憩はとったけど、流石に疲れてきた。
腕時計の針は午前11時30分をさしている。
朝6時に家を出て、公園を通り抜けるのが6時20分くらい。
その頃にこちらに来たから、およそ5時間歩き通しの計算になる。
さすがに疲れた…。
ただ、身体的な疲労とは対照的に、気分は少し浮上している。
…何でかって?切り株があったからさ!
意味わかんないですね。ちゃんと説明します。
切り株は、朽ちて木が倒れたのではなく、刃物で切ったように見えた。
つまり、木を切る道具を使う知的生命体がいるという証拠。切り口が綺麗だったから、切られてからまだ日が経っていないというのも重要だ。
これは、私には何よりの情報だった。
少なくとも近くに村か街がある可能性が強くなった。
さらに、このどこまでも続く天然アーチは、恐らく人為的に作ってあるものだ。
今も十分保たれているから、手入れをする人?がいるはず!
さすがに、途中からおかしいと思ったんだよね。
人が2人くらい通れる幅になった頃には、確信してました。
やっぱ、知らない場所では広い道を選ぶ。これは基本です。