第41話 良いことらしい
「ハルカさんやクルビスのように黒色で単色というのはさらに珍しいものですが、どちらも良いこととされていますから、両方揃っているハルカさんのことは、皆、好意的に見てくれますよ。」
縁起がいいってことかな?
良いものだと思われるなら安心だけど…。
「良いことだというのはわかりました。では、この髪の色で危険なんかはないってことですよね?…たとえば、この髪を切ろうと狙われたりとか。」
自分の髪をつまみながら聞いてみる。
好意的に迎えられるってことはわかったけど、誘拐の可能性なんかは消えてないんだよね。
「…ええ。ルシェモモはとても治安の良い街です。通り魔のような犯行はここ100年起こっていません。
また、髪や肌は個体の魔素を表すものですから、それを傷つけることはその個体、さらにはその一族の名誉も傷つけることになります。ですから、そのような蛮行に及ぶ者はまずいません。」
よかった。治安いいんだ。
それにしても、髪の毛ってすごく重要なんだな。髪を切るのが蛮行って…。
(髪や肌の色についてもあんまり見たりしたらダメなのかも。気を付けよう。)
最初にフェラリーデさんを見た時、麗しいお顔もそうだけど、緑の髪が珍しくてジロジロ見ちゃったんだよね。
地球でだって、肌の色や体型なんかをジロジロ見るのは失礼なことだし。ホント気を付けよう。
「治安が良いようで安心しました。すみません。しつこく聞いて。」
疑り深い女だと思われただろうなぁ。
でも、おかげでやっと安心できたかも。
「いいえ。これで安心していただけたなら構いません。疑問があったら何でも聞いて下さいね。」
じゃあ、髪のことも聞いとこう。
髪切るのを蛮行って言ってたもんね。
「あの、じゃあ、髪のことも聞いてもいいですか?こちらで髪ってすごく大事なものなんですよね?」
「ええ。個体自身の魔素を示すものですから、その個体そのものと言っても過言ではありません。悪意を持って傷つけた者には非常に厳しい罰が下されます。」
うわあ。思った以上に大事なものなんだなぁ。
認識の違いというか、常識の違いというか、髪に対する意識から違うみたい。
(じゃあ、やっぱりジロジロ見るのってすごく失礼なことだったんだよね?フェラリーデさんに謝っとかなきゃ。)
「すごく大事なものなんですね。…あの、じゃあ、最初にフェラリーデさんと顔を合わせた時に、私、髪をジロジロ見ちゃいましたよね?それってすごく失礼なことだったんじゃないかと…。」
胸に手を当てて謝罪しようとすると、フェラリーデさんが慌てて遮った。
「いいえっ。私もクルビスと同じく一色だけの者の中でも珍しいのですよ。この色は我が一族にしか生まれませんから。見られることなんてしょっちゅうです。」
あ。そういえば、クルビスさんもフェラリーデさんも「一族の中でも珍しい」んだっけ?
そうかぁ。気にしてないなら良かった。これからお世話になるんだもんね。




