第38話 黒って珍しい?
「クルビス。そんなところに突っ立ってないで、こちらに座ったらどうです?」
フェラリーデさんに言われて、ハッとしたようにクルビスさんが動き出す。
…何があったんだろう?こっち見てたけど、振り返っても何にもなかったし。…あ、私か。
(わかってても、存在しない種族なんてのがいたら見ちゃうよね。)
やっぱ珍獣なんだな「ヒト族」って。でも、黙って立ってるのはやめてほしいなぁ。フェラリーデさんが声かけなかったらずっと立ってたの?ちょっと怖い。
「すみません。ハルカさんの髪が見事な黒一色なので、見入ってしまっていたようです。」
フェラリーデさんが私の髪をほめてくれる。クルビスさんのフォローかな。
でも、黒一色?変な言い方。聞いてみよう。
「あの、フェラリーデさんも髪の色一色ですよね?黒「一色」ってどういう意味でしょう?」
私が聞くと、フェラリーデさんは何かに気付いたような顔をして私を見てくる。
…もしかして、黒って珍しい?
「ああ。もしや、ハルカさんの故郷では、髪の色が一色なのは普通のことなのでしょうか?」
髪の毛ってだいたい一色だよね。一部分だけ染める人もいるけど。
頷くと、フェラリーデさんが納得したように頷く。
「成る程。それでは、私たちがハルカさんを見て驚いたのもわからないでしょうね。」
驚く?何に?
え。何かヤバいことじゃないよね?
「ああ。大丈夫ですよ。悪い意味ではありませんから。」
フェラリーデさんが苦笑しながら訂正してくれる。
ああ。よかった。ホッと息を吐き出すと、フェラリーデさんが説明してくれる。
「こちらでは、髪の色や体色は自身の魔素の質と量を表すのです。そのため、何色か混じるのが普通で、一色というのは珍しいのですよ。」
ここでも魔素ですか。さっきから魔素魔素ばっかり聞いてるような…。
(地球でいうところの元素ってことかな?もしくは、ラノベでいう魔力…。どっちかっていうと魔力っぽいけどなぁ。ていうか、今、珍しいって言った?)
珍しいのはマズい。でも、クルビスさんも黒だし…。
わかんないから聞いてみよう。
「あの。珍しいというのはどのくらい…。」
「そうですね。黒一色というのは、大変珍しいです。私もここにいるクルビス以外に見たことがありません。」
(えええっ。種族だけじゃなく、髪も珍獣要素ですかっ。)
驚きのあまり口をポカンと開けて固まっていると、クルビスさんが微笑んだ。
え。今度は何?
「ハルカ。ルシェモモでは黒はとても良い色だ。強さの証でもある。」
(え。あ、良い色?何だ…いやいやいや。良かろうが悪かろうが珍しいのは危険を呼び込むってことじゃない?そこ確認しないと。)
クルビスさんの言葉に安心しそうになりながらも、私の安全の保障になっていないことに気づき、慌てて自分を立て直す。しっかりしろ、私。
(強さの証って、私一般人なんですけど。変に勘違いされて、襲われたらどうすんのよ。変な頼みごともお断りだし。)
ゆっくり深呼吸して、クルビスさんに聞いてみる。
「黒が強いってどういう意味ですか?」




