別話 回想7 (フェラリーデ視点)
とにかく、彼女には1度個室へ移ってもらいましょうか?
そうすれば、他の隊士の目に触れずに済むでしょう。
長にはポムの小道のことも含めて今日中に報告しましょう。
明日にはルシェリード様にもご報告しなくては…。
「種族のことに関しては…ということは、他に問題点があるんですね?」
「っ。ええ…。ハルカさんにはかないませんね。
おっしゃる通り、他にも問題があります。」
っ。ああ、先程の私の発言ですね。いけませんね。失言でした。
あの言い方では気にしてくれと言っているようなものです。
共鳴に気を取られ過ぎていたようです。しかし、ちょうど良いですね。
彼女には注意して欲しいことがありますから。
「ハルカさんの国の話です。こちらに無い技術、知識、発想…どれもすばらしいものです。
すでに申し上げましたように、ルシェモモは技術都市であり、技術は財産です。個人の持つ技術1つ1つが保護の対象でもあります。
…先程、ある程度の技術は一般に公開されているとのお話でしたが、こちらでは関係者以外は知りようがありません。
ですから、ハルカさんの持っていらっしゃる情報は非常に価値があり、かつ、不自然でもあるのです。」
そう、彼女は不自然なのです。知りえるはずのない知識、珍しい持ち物…服装も変わっていますから、目立たぬものに替えてもらえれば安心です。
先に着替えていただきましょうか?
それとも、大きな袋に彼女の荷物を入れてもらいましょうか?
さて、どう切り出しましょう。
「それなら、私の荷物もお預けした方がよろしいでしょうか?」
……今、何と?彼女は「荷物を預ける」と言いましたか?
…私はまだ何も言っていません。何故…。
「…えっと。今のお話だと、私の知識は価値があってお金になるので、素人の…専門家じゃない私が知ってるのは不自然だから、周りに知られないほうがいいんですよね?」
ハルカさんが先程の私の話を確認するように聞いてきます。
彼女の視線を受けて、慌てて頷きます。その通りです。理解が早いですね。
「先程のような技術の公開についてのお話は、そもそも私の持ち物が発端です。
違う世界のものなら珍しくて当然でしょうし、華やかなものは必ず質問されるでしょう。誤魔化すのも限界があると思います。」
ええ。私が危惧していたのもその点です。珍しいものには興味を持つものですが、彼女の持ち物は見たことのないものばかりです。それも高い技術で作られたものばかり。
さらに技術都市ルシェモモでは、誰もが新しい技術に注目していて、常に情報を集めようとしています。
1度でもウワサになれば、ハルカさんに技術者がつめかける可能性がありますね。
最悪、盗難や誘拐の可能性も出てきます。
それを防ぐには、初めから誰にも知られていないのが最も良い方法です。
「それを未然に防ぐためには、まず、私の持ち物自体を知られないことです。
知らないものは尋ねようがありませんから。
…ですから、私の荷物を御二方のどちらかにお預けした方がいいのだろうかと思い、お尋ねしました。
話が飛躍してしまってすみません。」
私の考えと同じ…。
それも先に言われてしまいました。
私が茫然としていると、クルビスがついに吹き出します。
クックックックッ。
…さっきから面白そうに眺めていたのは知っていますよ。
ハルカさんから顔をそらして照れていた時に何もしなかった意趣返しですか?
まあ、これでおあいこですね。…しかし、今日は珍しいものを見る日ですね。
ハルカさんの持ち物もそうですが、「あの」クルビスが照れて、吹き出すほど笑っているなんて…。
リーーンリーーン
魔素の音も大きくなっています。本当におかしいんでしょうね。珍しい。
少々腹立たしくもありますが、珍しいものを見た驚きの方が勝っています。
キィに言っても絶対信じてくれないでしょうね。
…いえ、むしろ喜々としてからかいに来るかもしれません。後で教えてあげましょう。
「リード。ハルカはわかってるみたいだ。
自分の立場も取るべき行動も。俺たちが隠す意味はない。」
ええ。彼女の聡明さを侮っていたようです。
「ヒト族が存在しない」と伝えた時も、あれ程見事に対処して見せたのです。自分の特異性など、とうの昔に理解していたに違いありません。
「…そのようです。ハルカさんに先に言われてしまいました。」
私が素直に認めると、クルビスはますます楽しそうです。
こんなクルビスは何年ぶりでしょう。
まあ、彼のことは置いておくとして、これならば、ハルカさんに先に着替えていただいて、その間に目立たない大きい袋を用意したほうが良さそうですね。
そろそろ巡回の班もすべて戻ってきて、副隊長たちが報告に来るころですし。
「失礼しました。実はハルカさんにお願いしたいことがあったんです。」
ハルカさんが姿勢を正してこちらをまっすぐ見てきます。
チリリンチリリン
少し緊張していますね。魔素の音色がやや固い。
着替えて欲しいだけですが、なるべく穏やかに話しましょう。
「単刀直入に申し上げますと、まず、ハルカさんにこちらで流通している服に着替えていただきたいのです。」
「…着替え…ですか。」
私がお願いすると、彼女は自分の服を見て、何かに納得したように軽く頷いて、快く了承してくれました。
「わかりました。着替えを一式貸していただけますか?」
おそらく聞いて下さるだろうと思ってお願いしましたが、こうもあっさり頷かれると、拍子抜けしてしまいます。
もう少し躊躇するか、少なくとも理由を聞かれるだろうと思っていたのですが…。
「な?そのまま話したほうが早かった。」
私がハルカさんに返事が出来ないでいると、クルビスが嬉しそうに言ってきます。
…友よ。何故あなたが自慢げなんです?確かにあなたの提案に従いましたけれど…彼女はあなたの伴侶ではないでしょう?
まるで伴侶自慢をしている時のキィのようです。
無意識なんでしょうか。こんなクルビスは本当に珍しいですね。
クルビスの反応も興味深いのですが、ハルカさんが不思議そうですし、返事を返すことにしましょう。
クルビスの先程の言葉に頷いて、ハルカさんに向き直ります。
「ええ。最初からお願いすれば良かったですね。
ハルカさんの服装も持ち物も目立ちますから、こちらの物に変えていただきたかったのです。いずれこの部屋にも他の隊士たちが来るでしょうし、その時に噂になってもいけませんからね。
…では先に着替えていただけますか?着替えを取ってきますね。」
聞かれませんでしたが、一応の事情説明をしてから隣の部屋に着替えを取りに行くことにします。
しばらく、彼女の身柄は医務局で預かりますから、患者用の服が良いでしょう。あれなら、多少サイズが違っても着ることが出来ます。
「お願いします。」
ハルカさんの返事を聞いて、隣室のドアに向かいました。




