第4話 美味しいもの
悶えながらもヒヨコもどきから目を離さないでいると、ヒヨコもどきは枝の先にある黄色いものの所まで辿り着き、そのままかぶりついた。
(えっ?果物っ?)
先程までの悶えっぷりは何処かに行ってしまった。
水も欲しいが食料も欲しい。
カバンの中には、朝食兼おやつの栄養価の高いチョコバーやドライフルーツバーなどが入っているけど、今の私には貴重な食料なのでなるべく手元に置いておきたい。
初めて見るとはいえ、生き物が食べてるなら試してみる価値はあると思う。
見た目に酸っぱそうなのは仕方ない。
ヒヨコもどきは実際は果汁を吸っている様で、ますます蝙蝠みたいだと思いながらも、肉食じゃないならそれ程危なくないだろうと、当たりをつけて近づいていく。
サクッサクッ
軽快な音が森に響く。抜き足差し足のつもりでも、このパリパリ落ち葉の前では意味が無かった。
食べられるかもしれないものに浮かれて、他のことを忘れてた。アホか私は。友人の大笑いする幻聴が聞こえた気がする。
「プギィッ?」
小さく甲高い、しかし予想外な鳴き声で慌てるヒヨコもどき。
(えっ?ブタ?
ブタの鳴き声みたい…。
でも、可愛い〜。)
最早、ヒヨコもどきなら何でもいい気がする。
でも、あの鳴き声には驚いたなあ。流石異世界。何もかもが驚きの連続だ。
なんてことを考えてる間に、目的の枝に辿り着く。
抜き足差し足?最初の一歩で諦めました。
ヒヨコもどきは置いといて、その隣の枝にある果物を素早くもぎ取る。
念のため、ヒヨコもどきと距離を置いてから、採ってきたばかりの果物をわくわくしながら見る。
何せ、やっとありつけた食料だ。期待が高まる。
形はレモンに似てるけど、皮の感じは梨のみたいで、綺麗な黄色をしている。ますます酸っぱそうだ。
洗えないので、手で軽く払って、恐る恐る、ほんの少しだけかじる。
シャリッ
予想と違い、爽快な香りと共に、甘酸っぱい味が口に広がる。
ゆっくり時間をかけて咀嚼し、口の中が痺れてこないか確認する。
口の中に異常は無いので、そのままゆっくり飲み込んで、腕時計を見ながらしばらく待つ。
15分後、身体に異常が無いのを確認してから残りを食べた。
シャクッ
シャリッ
心地よい音が耳に響き、爽やかな香りと食感が口いっぱいに広がる。
さっきは、ほんの少しだったからわからなかったけど、味も梨っぽい。少し酸っぱい気もするけど、天然物でこれだけ甘みがあれば十分だと思う。
あっという間に残りを平らげて、ひと息つく。
「ふー。美味しかったあ。」
思わず口から感想がもれた。一つで意外にお腹がふくれたので、幾つかもいでいこうかと考えていると、
バサササッッ
羽ばたきの音と共に、空が暗くなった。