第34話 意外な事実
「…こちらではお風呂にお湯を使わないんですか?」
おそるおそる尋ねてみる。
もしや、水しか使えないとかですかっ。いえ、使えるだけでありがたいのですが、これだけ設備が整っていると期待してしまいます。
「いいえ。種族によってはお湯が体質に合わない方がいまして、それで確認しました。」
ああ。なんだ、そうでしたか。
ホッとして肩の力が抜けるのがわかる。
「大丈夫です。私の国では、お湯を浴槽に溜めてつかるという習慣がありましたから。」
珍しいみたいですけどね。しかも、毎日入りたがるのは日本人くらいだとか。
私が答えると、フェラリーデさんは頷いて入口の壁に近づいた。
見ていると、壁の模様のタイルを一部開けて、その中で何か操作して始める。タイルが私の方に開いているため、詳しい動きはわからない。
「よし。…今日は気温が低いですから、暖かめに設定しておきますね。浴槽にお湯も溜めておきますから、あのフタを開けて入ってください。」
フェラリーデさんが浴槽の水色のフタを指しながら説明してくれた。
こっちもお湯に浸かるんですね。
(わっ。お湯に浸かれるんだっ。昼間からすごい贅沢っ。)
喜びに浸りながらも、頭に疑問が浮かぶ。
…ん?そういや、今なんか不思議な言葉が聞こえたような…。
気のせいであってほしい。
「あの…今日って気温が低いんですか?」
戸惑いながら尋ねると、フェラリーデさんが少し目を見開く。
それを見て、私の戸惑いは強くなる。
私にはかなり暑いんだけど。25度以上あるでしょ。
「…この1年の中でも最も寒い日になるでしょうね。この辺りは年中暑いので。」
(えええっ。これで寒いの?じゃあ、暑い日っていったいどれくらいに…。)
私が恐ろしいことを考えそうになっていると、フェラリーデさんが声をかけてくる。
「確認すべき点がまだあるようですね。
また後でお話しの続きをお聞きしますが、1度には無理でしょうから、その都度聞いてくださいね。
我々も当たり前だと思って、伝え忘れることがあるでしょうから。」
確かに。さっき説明するときすごく頭使ったもんなぁ。
当たり前すぎて普段意識しないから、なかなかその場で思い出せないんだよね。
よし。使う前に聞く。これしかない。
「そうですね。私も何かする前には確認するようにします。」
頷いて答えると、フェラリーデさんがふわりと微笑む。
うわっ。至近距離での美形の微笑みっ。
…美形の微笑みって心臓に悪いわ~。いきなりは勘弁して下さい。
マジで寿命が縮むわ…。




