第3話 可愛らしいもの
異世界だと認識してから、より一層周囲を警戒し、周りの景色を注意深く観察しながら歩く。
…歩いてるんだけど、行けども行けども、真ん丸葉っぱの木の天然アーチが続くばかりですぐに飽きた。
(せめて、遠目でいいから、鳥の姿でも見れないかなあ。)
そんな風に考えてしまう。
いや、獣に会わないのは良いことだし、異世界なら魔物とかもいるかもしれないから、今の状況は歓迎するところだと思う。
でも、こう道行きが単調だと気が抜けてしまいそうで怖い。
(いやいや落ち着け私!
ここは異世界だし、人里じゃないし、人がどこにいるかもわからないんだから。
それに、この道は自然に出来たものじゃなさそうだから、進んでいけば何かは見つかるって。もうちょっと。もうちょっと。
森の中は安全じゃないんだし、気を引き締めなきゃ!)
そう言い聞かせながら歩いていたら、進行方向の先、目線より上の方に突き出している枝が見えた。
何故その枝が目に着いたかというと、黄色いものがぶら下がっているのが見えたから。
黄色いものは、動いているように見えた。
流石にこのまま進むわけにもいかず、立ち止まってカバンを盾にしつつ、黄色いものを観察する。
レモンくらいの大きさで、フワフワしてるように見える。ふるふるしていると思ったら、花開くように羽を広げた。
その時には、私は既に木の陰に身を隠しながら黄色い鳥?を観察している。
見ていると、鳥のようなものは羽の先にあるかぎ針のような爪を枝にたてて、まるで猿のように、互い違いに爪を枝に引っ掛けながら移動し始めた。
(エエエエェッ?
飛ばないのっ?
ていうか、アレって…。)
そう、黄色いものは、どう見てもヒヨコだった。
(…そういや鳥って、飛ぶ為だけじゃなくて、体温を保つために羽を持つのもいるんだっけ。)
昔みた動物番組でいろんな鳥が紹介されてたのを思い出す。
紹介された鳥には、流石にかぎ針のような爪は無かったけど。
そもそも羽の先にかぎ針状の大きな爪がある時点で、鳥じゃない気がする。
(アレはどっちかっていうと、…そう!蝙蝠みたい!)
昔動物園で見た蝙蝠を思い出す。木にぶら下がっていて、羽の先に爪があった。
ただし、私の知ってる蝙蝠はちゃんと飛ぶし、爪で引っ掛けて猿みたいに枝を移動したりしない。
細かいことを言えばキリがないから、そこで情報の引き出しを止めることにする。
此処は異世界なんだから、環境が違えば見知らぬ生物もいて当たり前だと思ったからだ。
(やっぱり、まだ認めたくないのかなぁ。)
思わず苦笑する。
ちなみに、初めて見る異世界生物に胸をときめかしている間、ヒヨコもどき(とりあえず命名)はまだ枝を移動していた。
フワフワの羽毛に包まれた小さな体を、体の大きさに合わない大きな爪で一生懸命運んでいる。少し羽の部分と爪の部分が大きいだけで、他はまんまヒヨコなので、可愛らしいことこの上ない。
(かっわいい〜っっっ!
何あの生き物!
持って行きた〜いっ。)
木の陰から覗きつつ、あまりの可愛らしさに身悶えする。
端から見てたら変な人だろうけど、幸いなことにここには誰もいなかった。