第32話 着替えましょう
「失礼しました。実はハルカさんにお願いしたいことがあったんです。」
おや。何でしょう?
少し居住まいを正して聞く姿勢をとる。
「単刀直入に申し上げますと、まず、ハルカさんにこちらで流通している服に着替えていただきたいのです。」
「…着替え…ですか。」
着替えという言葉につられて自分の服を見てみる。
そういや、スーツだった。
今はシャツにパンツだけのシンプルなスタイルだけど、クルビスさんやフェラリーデさんはノースリーブだもんなぁ。
確かここ来る前に見た一般の人?たちもノースリーブだった。
(成る程、格好からして怪しんで下さいって言ってるようなもんか。)
「わかりました。着替えを一式貸していただけますか?」
頷いてお願いすると、フェラリーデさんが苦笑した。あれ?
私が首を傾げていると、クルビスさんがフェラリーデさんに話しかける。
「な?そのまま話したほうが早かった。」
何で嬉しそうなんでしょう?
私が首を傾げていると、フェラリーデさんがクルビスさんに頷いてから話し始めた。
「ええ。最初からお願いすれば良かったですね。
ハルカさんの服装も持ち物も目立ちますから、こちらの物に変えていただきたかったのです。いずれこの部屋にも他の隊士たちが来るでしょうし、その時に噂になってもいけませんからね。
…では先に着替えていただけますか?着替えを取ってきますね。」
「お願いします。」
理由に納得してお願いすると、フェラリーデさんが立ち上がって隣の部屋へ行く。
すると、クルビスさんがこちらを向いて胸に手をあてた。
何事ですかっ。
「ハルカ。勝手を言ってすまない。
だが、ハルカの知識と持ち物はこのルシェモモ…いや、この世界全体で見ても価値のあるものだ。
このまま、ハルカを1つだけで外に出すわけにはいかない。
ここに来たときの状態からみて、しばらくはここの医務室にいてもらうのが一番自然だろう。」
世界かぁ。何か話が大きくなってきたなぁ。
でも、異世界のものが珍しいのは当たり前だし、誇張じゃないよね。
やっぱ監禁コース?あ、でも医務室にいるなら入院かな?
(わざわざクルビスさんが謝ることないのに。やっぱり、紳士だよね。)
現れ方が怪しいうえに異世界から来ましたなんて、普通、頭おかしい人で終わりだよね?
放っとかれるか、問答無用で投獄・監禁でもおかしくないのに。
しかも、クルビスさんやフェラリーデさんと話した感じからすると、異世界トリップが普通の世界じゃないみたいだし、混乱させただろうなぁ。
「いいえ。謝らないでください。
クルビスさんもフェラリーデさんも、死にかけてたところを助けて下さいましたし、私の話に耳を傾けて下さっています。
とてもありがたいと思っています。感謝こそすれ、文句なんてありませんよ。」
ラノベの主人公たちの苦労を思えば、こんなの全然です!
クルビスさんの目を見て訴えると、クルビスさんがふと目を細める。
あれ、何だかほんわかしてきた…。
ふわふわとした心地にうっとりしていると、ドアが開く音がして我に返った。
何か見つめ合ってたっ。恥ずかしいっっ。




