第30話 身の安全
私が沙汰を待っていると、フェラリーデさんは息を飲んで黙ったままだった。
クルビスさんは…やっぱり表情はわかんないや。
何となく緊張してる感じが伝わってくるけど、わかるのはそれくらい。
(…当たり前だけど、空気がピリピリしてる。居心地悪いわあ。)
待つしかないから、大人しく座ってますけどね。
覚悟は決めた。どんとこい。
…安全で自由な感じだと大歓迎です。
(他に引き渡されたりするのかなあ。
できたら、クルビスさんやフェラリーデさんとは接点を持っておきたいんだけど…。)
待つしかないからつらつらと考える。
ここが病院や警察なら長居は出来ないよね。
なら、何処か別の場所へ移されるんじゃないかな。
そうなると他の誰かに引き渡される可能性の方が高い…。
う~ん。クルビスさんとフェラリーデさんは信用出来そうって思ってるけど、他はどうかわからないからなぁ。
会う人が皆良い人なんて幻想持ってないし。
(ヒトがいないなら、もしや私は珍獣あつかい?
珍しいってことは危険が増えるってことだもんな〜。)
あり得る可能性に内心頭をかかえる。
悲観的になるつもりはないけど、可能性だけは考えておかないと。
ショックで固まったら、その方が危険だ。
(黒髪・黒目が珍しくて、主人公が狙われるパターンもあったなあ。)
ずっと前に読んだラノベでは、黒目が薬になるっていうとんでもない迷信が出回っていて、主人公が誘拐されそうになっていた。
(まぁ、クルビスさんを見る限り、黒が嫌がられたり差別されたりはなさそうだし。
そこまで珍しくないのかな?
だったら、実験動物的なルートは回避されるかな〜。)
ここに来た時、クルビスさん皆から注目浴びてたけど、嫌な感じじゃなかったよね?
堂々とした様子からも、普通に生活出来てるみたいだし。
そこは心配しなくてもいいかも。
何てことを考えてたら、視線を感じてそちらに顔を向ける。
そしたら、クルビスさんと目が合いました。
…えっと。何でしょうか?
視線で問い返してみる。
…通じませんよね。すみません。
声をかけようとしたら、クルビスさんが先に口を開いた。
あ、立派な牙。
「…大丈夫だ。ここにはいろいろな種族が集まる。だから、見知らぬ種族がいて当たり前だし、誰もそれを問題にしない。
俺もハルカのことを別の地方から来た技術者だと思っていた。」
クルビスさんの落ち着いた低い声が耳に響く。
少し細めた目が優しい感じだ。
…何でだろ。安心するなぁ。
(クルビスさんが大丈夫って言うなら大丈夫かな〜。)
思考が楽観的になっていく。
身体から余分な力が抜けていくのがわかる。
肩の力が抜けて…いやいや。そんなことじゃダメだから。
しっかりしろ私。
フェラリーデさんの意見も聞かなきゃ。
我に返って、フェラリーデさんの方を向くと、フェラリーデさんはあの穏やかな微笑みを浮かべていた。
「ええ。クルビスの言う通りです。
ルシェモモは技術都市ですから、その技術を学ぶために常に移住者がいます。
種族も様々ですから、生活する上でそのことについて特別に聞かれることもありませんし、差別もされません。
それがこの街で技術を学ぶための条件でもあります。」
国際都市なんですね。
整備された街並みを見て、発展した都市だとは思ってたけど、かなり大きい街みたい。ニューヨークみたいなものかな。
「もしもそのようなことをする者がいたら、周りが咎めますし、目に余るものは罪に問われます。
ですから、種族のことに関しては大丈夫だと思います。安心して下さい。」
ああ、良かった。
種族の差別がないだけでも、ずいぶん助かる。
こういうのって難しいから、自分1人じゃどうにもなんないもんね。
フェラリーデさんの言葉に安心してから、はたと気づく。
…種族のことに関しては?って言った?
じゃあ、他に問題があるんだよね。きっと。




