第29話 覚悟を決めます
「違う世界…いわゆる異世界だと知っているか、ということですよね?
ええ。知ってますよ。空の色が違いますから。」
ミントグリーンだもん。
嫌でもわかるし。
「空の色が…。そうですか、それで…。
先程から、『我々が知るはずが無い』という前提で話しておられるようだったので、気になっていました。そこに先程の言葉です。」
ああ、「私の世界」ね。
異世界だと知らなきゃこんな言葉出ないもんねぇ。
「ハルカさんのお話を聞く限り、我々の知る国、都市、文化、どれとも情報が一致しませんでした。
聞いたことのない情報ばかりで、正直とても驚きました。」
異世界の情報ですから。
知らないことばかりだったと思う。
混乱しただろうなぁ。
頷きながらフェラリーデさんの話を聞く。
「また、ハルカさんの種族はヒト族とのことでしたが、ヒト族という種族はこちらには存在しません。
そして、ハルカさんのような特徴を持つ種族もいません。」
驚きに目を見開く。
うすうすその可能性も考えていたけど、それでもまだ、たまたまリザードマンの街に来たのかなって思ってた。
他にヒトの街があるのかなって。
(まさか、ヒトが存在しないなんて…。
ヒト型の獣人がいたからいるかもって思ってたのに…。
…見たのは1人だけだけどさ。)
エルフはカウントしてません。
ラノベによったら、精霊みたいなものだって場合があったから、ヒトがいる可能性を示してくれるものじゃないって思ってるし。
この街を見たのは、クルビスさんに手を引かれて少し歩いた時だけだったけど、ヒト型の姿が少ないって思ったんだよね。
クルビスさんみたいなリザードマンやエルフばかりで、ヒト型の獣人だってここに来る前に1人見ただけ。
ヒトと対立してるにしては、私への扱いが丁寧過ぎるし。
ヒト型の姿が異常に少ないし。
疑問はあった。
でも、『全然知らない世界なんだから決め付けるのは良くない』って歩いてる間に決めてたから、結論づけるのは避けた。
何があってもおかしくないって。
…覚悟、全然出来てなかったなぁ。
「違う大陸にいるってことは…なさそうですね。」
それでも考えられる希望的観測を述べるが、フェラリーデさんもクルビスさんも首を横に振るばかり。
(ダメかぁ。…認めるしかないよね。でなきゃ、話が進まないし。)
目を閉じて、深呼吸をひとつ。
ゆっくり息をはいて、静かに目を開ける。
ーー起こったことは仕方ないよ。それより、今これからのことを考えなきゃ。
おばあちゃんの口癖が思い出される。
そうだ、起こったことは仕方ない。
実際、私には当面の食料と寝床の確保がいるんだから。
「…そうですか。
では、私の処遇はどうなるのでしょうか。」
(どうか、監禁・実験ルートにだけはなりませんように。)
祈りながらフェラリーデさんに聞いてみる。
私は今の状況を楽観していなかった。
クルビスさんに助けてもらったけど、それは緊急搬送だったし、ここが病院ならお金もいると思う。
今まで話した内容は、私の体調についてや私がここに来た経緯など、私自身に関することばかりで、これは事情聴取だと思ってる。
つまり、身の安全を保障してもらってないってこと。
しかもトドメにヒトが存在しないときた。
…楽観できる要素が1個もないよねぇ。
さて、どうなりますか。




