第27話 私の持ち物
自分の思考を振り払い、クルビスさんとフェラリーデさんの方を見る。
フェラリーデさんは今はお箸の細工を見ているし、クルビスさんは髪飾りを眺めている。
…やっぱりおかしい。
笑いそうになるのを再度堪える。
私の持ち物だから、当然女物だし、デザインも色も綺麗でかわいらしいものばかりだ。
男性が熱心に眺める物じゃないと思うから、尚更おかしく感じてしまう。
そんなことを考えていると、フェラリーデさんがこちらを向いた。
「ハルカさんの国の技術はとても発達しているのですね。
この…食器の細かな細工も見事ですし、紙も薄くて均一です。私の故郷でも紙は生産されていますが、もう少し厚みがありますね。」
トイレットペーパーがあるくらいですもんね。上質な紙もありますよねぇ。
トイレも水洗だったし、技術が高そうだよね。
トリップしたら中世くらいの文化水準っていうのが王道パターンなのに…。
ラノベと違ってて、ホント良かった。
「こちらの布も見事だ。ここまで細やかな染めは見たことがない。」
今度はクルビスさんがほめてくれた。
ちりめんの巾着ですね。
紫の地色に桜の花模様が綺麗でしょ?
数ある巾着の中から選んだお気に入りの一品です。
「…こちらはまた違う布なのだな。色鮮やかで美しい。
ココの布に似ているな。」
「そちらは髪飾りですね。
…ココという布に似ているんですか?」
クルビスさんは手元のシュシュを見ながら答える。
「ああ。色鮮やかで様々な色を染め分ける。街の内外問わず、人気の高い布だな。
だが、ココは染めの色が増えれば増えるほど地の色は薄い色になっていくが…この布は地色も鮮やかな黄色だ。」
「にじまないように、糊を使うそうです。それもただ使うだけではダメで、高い技術が必要とされます。
…ココの布も綺麗な布なんでしょうね。そのお話からだと、特徴がとても似ていますね。」
クルビスさんに頷きながら答えていく。
たくさんの色を染め分けていて、色鮮やか。私が紅型に持っている印象そのままだ。
西陣や友禅といった日本的な染め物は、振り袖はともかく、全般的に控えめな色彩が多いように思う。
だから、紅型を初めて見たとき、その鮮やかさに驚いたんだよね。気候の差が色にも出てるのかな。
クルビスさんが聞く姿勢なのを見て、説明を続けることにする。
自分が知っている物とよく似た物って気になるよね。
「その布は、紅型と言いまして、沖縄という日本の南の地方の染物です。
型を使って染め分けられるそうですが、工程が多く、非常に手間がかかります。
そのような黄色の布は、昔は特別なものだったそうです。
今では、一般にも出回っていて、私も布を手に入れたので、髪飾りを作ってみました。シュシュと言います。」
沖縄に旅行に行った時に初めて紅型を見て、何て綺麗なんだろうって思ったんだよね。
急に決めた旅行だったから、工房では見学だけで、紅型買う気はなかったんだよね。予算が足りなくてあきらめた時は悲しかったなぁ。
後日、ネットで紅型を切り売りしているお店を見つけて、布地だけ買ってシュシュを作ったんだよね。
残りの布は大事に置いといたけど、しまい込んだままだったなぁ。
「手法も今聞いた限りでは似ているようだ。
…ハルカは染め物の技術者なのか?」
紅型のシュシュを見て思い出していると、クルビスさんから予想外の質問がくる。
「えっ、染め物職人になった覚えはありませんが。」
思わず即答する。
考える間もなく口に出してた。…何ゆえ?




