第26話 私の仕事
頭をフル回転させながら、なるべく簡単に説明するよう心がける。
「日本は歴史の古い国でもありまして、海に囲まれていたせいもあったんでしょうが、1000年以上王朝が続いています。世界でも珍しい例だと教わりました。」
古いって聞くと、奈良の法隆寺を思い出す。
見学した時に、こんなに古いものが残るんだって素直に感心したんだよね。
懐かしいなぁ。
奈良・京都には、また行きたかったな。
「歴史が古い分、伝統技術もたくさん伝わっていて…こちらの袋に使われている布は友禅ちりめんと言いまして、独特のでこぼこがあるちりめんという布に、友禅という細かい模様を染める技術を使って作られています。
…他にも、和紙という紙やこちらの箸という木を加工した食器など、さまざまな技術が伝わっています。」
カバンの中から、華やかなちりめんの巾着と、和紙のメモ帳にマイ箸を見せながら説明する。
仕事柄、いろいろな雑貨に接しているうちに和小物にハマったんだよね。
クルビスさんもフェラリーデさんも興味深そうに眺めている。
…見てるだけ?
「あ、よろしければ、手にとって見てください。」
私が勧めると、フェラリーデさんがこちらを見返しながら聞いてきた。
「よろしいのですか?」
別に、メモ帳に困ること書いてないし。
巾着の中には、鏡とくしと予備の髪飾りが入ってるくらいだし。
「ええ。別にたいしたものではありませんし。」
頷いて許可を出すと、フェラリーデさんはメモ帳に手を伸ばした。
ん?クルビスさんは?
「…クルビスさんもどうぞ?」
クルビスさんにも勧めると、彼は驚いたような顔をして言った。
…いや、驚いたって言っても、目を軽く見開いたから、そうかな?って思ったくらいだけどね。でも、たぶん当たってる。
「…いいのか?」
全然いいですよ?
事情聴取だし。カバンの中全部見せろって言われたわけでもないし。
…見せろって言われたら見せるけどね。
(クルビスさんもフェラリーデさんもそんなことしないと思うけど。)
そんなことを思いつつ、頷いてクルビスさんに巾着をわたす。
クルビスさんは巾着のちりめんをまじまじと見つめた後、ひっくり返したり、紐を引っ張ったりと巾着の形を観察していた。
なんだかおかしい。
いい大人が真剣に和小物観察してるなんて。
私も仕事の時はこんなだったかな。
笑いそうになるのをこらえつつ、自分の仕事のことを思い出した。
(…急ぎの仕事はないし、子供の日関連のは私の担当にはないし…今ちょうど空いてる時期でよかった。)
春小物のピークが過ぎて、今日は休んでもいいって言われてたんだよね。しばらく、休日返上だったし。
今日は休みだと思われるかな。特に仕事に行くとも、休むとも返事してなかったからなぁ。
ほんとだったら、今日は会社に行って、梅雨の時期の雑貨を提案するための企画を練るはずだったんだけど…。
会社のこと考えたら、一気に思い出がフラッシュバックする。
大学生時代に雑貨にハマって、こんなかわいいものを扱える仕事がしたいって思って、今の会社を受けたんだよね。
お気に入りの雑貨について語ったら、それが売り始めたばかりの自社製品で。
それを当時の私は知らなかったんだけど、面接ですごくウケてさ。
初めて出したオリジナル商品だったらしくて、戦々恐々としてたって先輩に後で聞いたなぁ。
結局、それがきっかけで会社に入れたんだけど…。
「ハルカ。…その、中を見てもいいか?」
クルビスさんが聞いてくる。
(っっ。いけない、いけない。ぼうっとしてた。)
「ええっ。もちろんどうぞ。」
返事してからごまかすように微笑む。
クルビスさんは軽く頷いて、巾着を開けた。
…今のは会釈かな?
ただ単に、わかったって意味かもしんないけど。
結構似てるジェスチャーはあるみたい。
良かった。助かる。
にしても、思い出がどっと出てくるなんて…走馬灯?
ぶるぶるっ。縁起でもないっ。
いや、たしかに死にかけましたけどね?
いくら異世界だからって、死ぬ気はないから。
せっかく助かったんだし。
まぁ、仕事が気になったのは確かだけど。
…和小物触ったせいかな?




