別話 奇妙な訪問者4(クルビス視点)
「こちらです。…使い方はわかりますか?」
リードが彼女を案内しようとする。
おそらくわからないだろうな…。
ルシェモモの設備は整い過ぎて、他の地域とかなり差がある。
来たばかりの住民は、使い方がわからず戸惑うことも多い。
「あの…たぶんわからないと思うので、教えていただけますか?」
やはりか。しかし、今いる女性隊士は深緑の森の一族のみ。
彼女が本当にヒト族なら、今は接触を控えるべきだ。
幸い、と言うか、リードは医療部隊の隊長だ。
この医務局には、一般の住民も来るし、患者に設備の使い方を説明するのにも慣れている。まかせよう。
リードが昔言っていた通りなら、深緑の森の一族にはヒト族を憎む者や恐れる者がいるはずだ。
…リードは、自分は一族の変わり者だ、と言っていたな。
リードは基準にならんな。ここで医療部隊の隊長をやってるくらいだ。
「足が…。」
彼女が立ち上がって言った。
足の具合が悪いのかっ⁉︎
「大丈夫ですか?ポム茶を2杯飲みましたから、随分楽になったはずですが…。」
リードも心配そうに確認する。
すると、彼女は慌てて首を横に振りながら、
「あ、いえ、足が軽くなっていて驚いたんです。すみません。」
と言った。
…よかった。回復しているようだ。
「随分良くなったようですね。ですがクルビス、念のため補給は続けて下さい。」
リードも、ホッとしたように頷き、俺に補給の指示を出す。
もちろんわかっている。
彼女はまだ1つには出来ない。
彼女をトイレまで連れて行き、リードが使い方を説明する。
彼女は頷きながら聞いて、最後に嬉しそうに頷いた。
「わかりました。お手本まで見せていただいて、ありがとうございます。私の国の設備とほとんど同じのようです。」
ルシェモモと同じ?
しかもここは守備隊の医務局だぞっ。
ここと同じなんて…一体どんな国だ。
ここの設備は大陸一と言っても差し支えないくらいだ。
街の上下水道は完備され、トイレも水洗だ。
清潔を第一とし、医療も深緑の森の一族との協力により、薬も器具も医師の数も充実している。
他では、こうはいかない。
特に、ある時期から個体の強さが増して、あまり薬を必要としなくなったから、尚更だ。
「もういいな。俺は外に出ている。」
彼女の手を離して、外に出ようとする。
彼女の国は気になるが、設備が同じならば、使えるだろう。
「ええ。大丈夫そうですし、私も外に出ます。ドアのこのツマミがカギですが、万一のため、かけないで下さいね。何かあったら声をかけてください。」
リードも彼女に忠告しつつ俺の後に続く。
「はい。わかりました。」
彼女の声を後ろに聞きながら、部屋の中央に行った。
リードと共にイスに座ると、ため息がこぼれた。それにリードが苦笑する。
「お疲れ様です。クルビス。」
「ああ。まさかこんな事態になるとは思わなかった。」
今朝からの一連の騒ぎを思い出してまたため息をついた。
それも仕方ない。彼女は特大の爆弾を落としていった。
「ヒト族とはな…。」
「ええ、驚きました。話に聞いた通りです。
混じり気の無い一色だけの髪色に目の色、丸い耳、何よりあの魔素の少なさ…私が聞いたヒト族の特徴と一致します。
もしかすると、こちらに来た方法も、我々一族と同じかもしれません。」
彼女に聞こえないように、お互いささやくように確認し合う。
ことによっては、彼女を深緑の森の一族に引き渡さなくてはいけないだろう。
「っ。…では、来訪者か?」
「おそらくは。彼女の様子から、ウソを言っているようには思えませんでした。
我々の時と似ていると思います。
…彼女が最初にいたという場所の調査が必要ですね。」
ややこしいことになってきたな。
またため息が出そうだ…。
「ああ。それに、彼女のことも聞かないと。
国も同じような設備だと言ってたが、そんなこと、他で話されても困る。
…なるべく多く情報を引き出して、場合によっては口止めがいるだろう。」
「ええ。幸い、彼女は落ち着いていていますし、聡明です。
こちらの聞いたことには、きちんと答えてくれるでしょう。
…彼女はしばらくこちらに…?」
「ああ。一応、医務室の個室は取ってある。
あの状態だったからな。…おかげで、入室しても怪しまれない。」
「なら、しばらくは経過観察としましょう。 …今日、明日は様子を見る必要がありますしね。」
彼女のこの後のことを決めて、しばらくこちらで身柄を預かる算段を整える。
ちょうどその時、彼女が出てきて話を打ち切った。
「ありがとうございました。…お待たせしてしまいましたか?」
彼女のもとへ行き、また魔素の補給を再開する。
…まだ、足りないみたいだな。
そんなことを考えていたら、彼女と目が合い、思わずそらす。
…だから、その目はやめろっ。
「いいえ。では、隣の部屋に戻りましょうか。」
リードが可笑しそうに言った。
…お前、面白がってるだろ。




