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トカゲと散歩  作者: *ファタル*
異世界視点1奇妙な訪問者
22/168

別話 奇妙な訪問者1(クルビス視点)

単語解説


10(しん)…時計の10分。

透視(とうし)…魔素を見る能力。

遠目(とおめ)…魔素を調節して、遠くを見る能力。

 《各詰め所に一斉通達。

 気温の低下が確認された。本日は特別巡回を取る。

 本屋街と星街とミレー通りには、すでに追加の第1班を出した。

 各所の状況を報告せよ。》


 《本屋街。今のところは問題ありません。各支部も全員動けますので、いつも通り巡回します。》


 《星街。こちらも問題ありません。各支部全員動けますので、いつも通り巡回します。》


 《ミレー通り。先程、追加の班と合流しました。

 支部の状況は、隊士が5つ、動けなくなったのが5ついますので、医務局に連絡してください。

 ヴォルフラムに送ってもらいます。時間は6刻10針、場所は医務局です。》


 《了解。至急医務局に伝える。》



 全詰め所への通達用スイッチを入れたまま、医務局のスイッチを追加で入れて、詰め所に聞こえたままで連絡を入れる。



 《医務局。フェラリーデ。今から隊士が行く。

 時間は6刻10針。場所はミレー通りから。

 数は5つ。ヴォルフラムが送る。至急準備をしてくれ。》


 《医務局了解しました。転移の準備を始めます。》


 《よろしく頼む。》



 医務局のスイッチを切り、報告の続きを促す。



 《待たせたな。ミレー通り、数は足りてるか?》


 《各支部、2つはいます。大丈夫です。》


 《了解。ではいつも通り巡回してくれ。次、薬師街…》


 こうして俺は、次々入る報告を聞きながら、巡回のルートや各詰め所への対応などを決めていった。







 *******************




 《ああ。わかった。よろしく頼む、シード。》



 《あいよ。じゃあ後でな。》



 最後の詰め所を確認し終え、思わず息を吐き出す。


 

 …幸い、特に問題の起こった所は無かった。

 幾つか動けなくなった隊士がいて、医務局に連絡したが、これくらいは想定内だ。



 懸念(けねん)場所だった深緑(しんりょく)の森出口の詰め所は、単色(たんしょく)が1つと単色程ではないにしろ力の強いシーリード族が1つ詰めていた。

 そのうち単色で無い方は、うちの戦士部隊の副隊長シードだ。



 もともと個体としての能力は、単色でないため中の上くらいだったが、一族の特徴である身体の柔軟さとバネのような瞬発力で、敵の力をいなし、翻弄してしまう。

 さらに、体表に独特の模様を持っているため、嫌でも目を引かれ、視覚の撹乱(かくらん)を誘導する。



 機転もきき、視野も広い。…あいつがいるなら2つでも大丈夫だ。もう1つの隊士は単色だしな。



「クルビス隊長。マレリー通りのフェル広場から、転移局に術士の派遣要請がありました。」



 キーファが俺に報告する。俺が各詰め所と連絡を取っている間に、転移局に確認を取ってくれていたようだ。

 キーファが来たなら、思ったよりだいぶ早く単色が動けるようになったということだ。ありがたい。



 もう6刻になる。追加の班を派遣しよう。

 …ちょうど良い所に、また幾つか単色がそろって来たしな。






 ******************




「派遣要請はフェル広場だけか?」



「はい。術士が1つしか動けないとのことです。

 後は、ミレー通りの中央広場から、7刻迄に、今来ている食料の仕分けと配給を手伝って欲しいと…。

 すでに転移局に(あふ)れそうで、手が足りないそうです。」



「術士が1つか…。フェル広場は大きいから、それじゃあ、手が足りないな。

 よし、術士を3つ派遣してくれ。選抜はキーファに任せる。

 …後はミレー通りか…今日はカルーラから生鮮食品が来る日だったな。

 …どの店も開けれないから、受け取りに来れないんだな。どうするかな。」



「とりあえず、フェル広場にはユーリとゲインとクルスを派遣します。

 …ミレー通りの方は、暖かくなれば、動き出した客が押しかける可能性が高いですね。力のある隊士を5つほど派遣してはどうでしょうか。

 伝令がいりますので、フェラルド族は残しましょう。」



 キーファが俺の指示に答えながら、ミレー通りの増援要請に簡潔な意見を述べる。



 …確かに、今日の寒さなら、まだほとんどの住民は活動していないだろう。普段なら、とっくに起きて活動しているはずの時間だが、春がいきなり休眠期になったんだ、仕方ないな。



 と、なると、日が上ってから暖かくなれば、それ迄の時間を取り戻そうと一気に騒ぎになるかもな…。

 キーファの意見を採用しよう。さすが術士部隊の副隊長だ。



「ユーリっ、ゲインっ、クルスっ、フェル広場の転移局にすぐに向かいなさいっ。術士が1つしかいませんっ。昼には1度、私が確認に行きますっ。」



 キーファが事務局から声を大きくして、すでに決まった指示を出す。3つの術士たちは、心得たように礼をとって、すぐさま出て行った。

 声につられて食堂を見てみると、そろった単色はすでに待機していた隊士と合わせて、13の隊士だった。これで食堂に待機してる隊士は24だな。



 …若い単色の隊士がまだ5つ来ていない。

 やはり体温が上がりにくいか。魔素の調節で早められるが、やったことが無いんだろう。

 単色でこれなら、他は無理そうだな。



「ミレー通りの方は、確かにキーファの言う通りだ。

 詰め所は大丈夫だったからな。単色を向かわせよう。

 …他の転移局からは何かあるか?」



「いえ、通常の業務ならば大丈夫だそうです。

 …では、ミレー通りに単色を5つ派遣でよろしいですね?

 残りの術士はどうしましょうか?」



「ああ。他の術士は、星街と本屋街の西と東にある4つそれぞれの転移局と、薬師通りの転移局に派遣してくれ。後は任せる。」



「了解しました。」



 キーファの確認に頷いて、聞かれたことに指示を出しながら、事務局から出た。



「リカルド、ペッパ、ケルン、タージャ、アーネスト。

 …ミレー通りの中央広場の転移局から派遣要請があった。

 今日はカルーラから大量の荷物が届いている。荷物の仕分けと配給を手伝ってくれ。すでに、溢れかけてるそうだ。

 …また、後で、住民が押し寄せる可能性が高い。混乱して、ケガをする者も出るだろう。もちろん、それに乗じて良からぬことを考える輩もいるだろう。

 充分に警戒してほしい。」



 俺が名前と指示を出すと、呼ばれた5つは礼をとった後、すぐさま、現場に向かった。

 その横で、キーファに指示を受けた残りの術士たちが、同じく俺にも礼をとって急いで転移局に向かった。



 もう6刻を少し過ぎた。

 残りの隊士は19か。詰め所が無事ならこれでいけるな。

 巡回を回すか。





 *******************




 朝の慌ただしさが落ち着いて、昼前の10刻には気温も上がり出した。少しずつ街は活気が出始めている。



 振り分けた隊士たちも巡回に回っているが、特に問題は起こっていないようで、通信機に入る定時報告も食材の盗みやひったくりぐらいで、どれも取り押さえたとのことだった。

 この分なら、もうすぐ通常通りに戻せるだろう。



「リード、医務局の様子はどうだ?…食事を持ってきた。」



 リードに食事を運びがてら、様子を聞いてみる。

 キィは隊士を治療してから、残っていた術士を連れて、中央本隊に行っている。…今頃、各地区の守備隊や幼生(ようせい)の面倒を見てるだろう。

 中央には奥さんもいるしな。



「ありがとうございます。

 …もう大丈夫みたいです。起き上がろうとする隊士(バカ)が多くて、困りますね。」



 リードが苦笑しながら報告してくれる。

 今、隊士が「バカ」に聞こえたぞ。



 うちの戦士部隊は元気の有り余ってるやつらが多いからな。しかも職務熱心だから、多少の体調不良も隠して仕事するやつが多い。

 強い個体が多いし、普段ならば目をつぶるが、今それをされては困る。明日以降も今朝の気温だとすると、交代要員が冗談抜きに足りなくなる。



 リードに頼んでおいて正解だった。何時も具合の悪い隊士を目ざとく見つけては、医務局に引きずって行っているからな。



「もう動けるのか?…結構早いな。」



 リードの答えに俺も苦笑しながら、驚きを口にする。

 予想よりだいぶ早いな。術士たちのおかげか。



「術士部隊の成果ですよ。

 さすが…としか言いようがありません。身体に無理も無いようですし、夕方にはベッドから出られます。

 ただ、明日の朝のこともありますから、彼らには一晩泊まっていってもらいます。」



「そうか。キィに感謝だな。もちろん術士部隊にも。」



 リードの答えに頷きながら、しみじみと術士部隊に感謝する。

 うちが1番術士を抱えてる。キィがいるせいもあって、術士が集まりやすい。



 キィは、キィランリースはスタグノ族だ。両親は、シーリード族とスタグノ族で、本人はスタグノ族の特徴を受け継いだが、スタグノ族の里からこのルシェモモに戻って守備隊に入った。



 基本的に水場を離れないため、スタグノ族は自分たちの街からはあまり離れない。しかし、ルシェモモの街では、設備が非常に整っていて水が豊富なため、スタグノ族をよく見かける。



 特徴として、スタグノ族は総じて享楽的で、美しいもの、楽しいことが大好きだ。

 ルシェモモの街でも、美術や音楽、演劇などの芸術や、美しい宝飾品などを手がけるものが多く、戦士になるやつは少なかった。



 キィも稀なる例外だったが、スタグノ族の中でも水式の術を操るのに優れた青の一族だったため、すぐに頭角を現した。

 順当に出世し、今や精鋭ぞろいの北地区の術士部隊隊長だ。



 あいつに続いて、スタグノ族の術士も増えた。北地区の術士部隊の評判が上がるたびに、うちに配属希望するやつが増えて、今じゃ一等術士が15もいる。



 今朝の事態に迅速に対応出来たのも、術士部隊の働きが大きい。

 …今度キィに酒でもおごるか。



「ええ。今度何か(おご)りましょう。」



「ああ。美味いものと酒だな。」



 リードが俺の考えと同じことを言うので、笑って答えた。

 お互いに可笑しそうに笑い合う。

 キィは美味いものに目がないからな。酒にも。



「安心した。こちらも、もうすぐ通常通りに戻せそうだ。

 隊士たちには、くれぐれも休むように言っておいてくれ。食器は後で誰かに取りにこさせる。」



「わかりました。やっと一息つけますね。」



「ああ。」



 笑いが収まってきたので、こちらの状況と隊士への指示を話して、医務局のドアを開けた。

 そのまま下に戻ろうとすると、リードが声をかけてきた。



「ああ、クルビス。

 昼後(ひるあと)で結構ですので、誰かにポムの小道を見てきてもらえませんか?

 …里から連絡がありまして、向こうのポムの木が幾つか落葉し始めたとか…こちらも確認しておきたいんです。

 別れ道までで結構ですので、お願いします。」



 リードが聞き捨てならないことをさらりと言う。



「ポムの木がっ…わかった。調査しておく。

 …この寒さのせいか?」



「恐らくは…。このまま暖かくなれば、大丈夫でしょうが…念のために確認しておきたいんです。」



 リードの依頼を受けて、考えられる原因を聞く。

 リードも頷いて、自分の意見を述べる。



「成る程な。わかった。」



 どのみち、行って見なければわからないな。

 リードに頷きながら、医務局をでた。

 下に降りながら考える。



 森の出口の詰め所に確認しておくか…いや、シードと交代して俺が行くほうがいいか?

 その方が早そうだな。






 *******************




 ザザザザザザッ



 ポムの小道を突き進む。

 あれから下に降りて、深緑の森の出口の詰め所に確認したら、確かに落葉が見られるとのことだった。



 シードと打ち合わせたところ、深緑の森の一族からの情報もあり、魔素の状態の確認もいるだろうから、俺が直接見た方が良いだろうということになった。

 シードは透視が苦手だったな。



 ちょうど、街の騒ぎもひと段落したので、昼後に隊士を1つ詰め所に寄越して、シードと交代することにした。

 特別巡回も、重要拠点は残して他は本隊に戻すことにする。

 …明日も動いてもらうなら、もう休ませないといけない。



 転移局に寄越した5つの隊士は、下に降りた時には、すでに仕分けは終わって帰ってきていた。



 労いながらもシードと連絡を取り、通信の後、食事中の5つにシードと交代してほしい旨を告げると、5つとも我先にと手を上げてくれた。…良い部下たちだ。



 ありがたく思いながら、遠目の得意なタージャに任せることにし、昼休憩後に早速行ってもらうことになった。

 何故か他の4つが不貞腐れ始めて、(なだ)めるのに苦労した。



 …ジャンケンで勝ったやつに、リードの食器を取りに行く役目を振ることで落ち着いたが…。困ったものだな。



 俺も昼食をとってから、交代でやって来たシードを労った。

 互いの状況の報告と確認をした後、ポムの小道に急いだ。




 ザザザザッ



 ポムの小道を行くこと数針。

 森の出口から見た時、確かに落葉が多かったが、他に目立った変化も見られなかった。

 とにかく、1度全体の様子を見ようと、俺は奥に進むことにした。



 …落ち葉が少し多いくらいだな。やはり今朝の寒さのせいか…。

 そんなことを考えながらも、突き進んで行く。



「っっ!」



 緩やかに曲がった小道の先に、何かが立っているのが見えた。






 *******************



 蜂蜜色の肌、丸い耳、戦えそうにない細い手足、見たことの無い服に靴…そして何より、俺の目を引いたのは、髪と目の色だった。



 彼女の髪と目は、黒一色だった。



 黒…。そんなバカな。

 信じられなかった。

 黒色を持つ者はいるが、俺のように黒一色の者になど会ったことがないし、聞いたこともない。



 …染めているのか?

 前にもあったことを思い出す。俺の気を引くために、自分の髪を黒く染めた女性がいた。



 無理をしたため、その女性の顔はただれて目も当てられない状態で守備隊の医務局に担ぎ込まれた。

 怪しげな薬に頼ったせいらしいが、その原因が自分だったことに衝撃を受けたのでよく覚えている。



 自分で言うのも何だが、俺は強い個体なため、女性にモテる。

 別に嫌ではない。はっきり言えば、男として胸をはれることだ。



 しかし、その時は、いくら気を引きたいといっても、何もそこ迄しなくてもと思ったものだが…。

 女性の悲鳴のような助けを求める声が耳に残って、以来、色を調整しようとする女性は苦手になった。



 彼女もそうか?…嫌、違うな。あの輝きは本物だ。

 彼女の髪を観察して、確信する。



 しかし何故こんな所に、1つだけなんだ?

 見たことが無い種族だが、ポムの小道にいるということは、深緑の森の一族の所から来たはずだ。

 しかし、さっきリードはそんなことは言ってなかった。



 彼女に聞こうにも、警戒されているようだ。

 …当たり前だな、どんな事情があるにせよ、女のひとり旅に突然見知らぬ男が出てきたんだ。



 さて、どうしたものか…目があった。

 澄んだ目だ。彼女の黒は柔らかいな。

 いつ迄も見ていたい色だ。



 どうしたことか、彼女の緊張が解けた。

 理由はわからないがありがたい。さて、何と言って声をかけようか…。



「☆、☆¥…。¥○%¥$€☆♪$°$#°$%♪?」



 今、何と言ったんだ?

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