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トカゲと散歩  作者: *ファタル*
異世界視点1奇妙な訪問者
21/168

別話 慌ただしい朝(クルビス視点)

単語解説


1(とき)…1時間。2時は2時間。

1(こく)…時計の1時。6刻は朝の6時。

四半刻(しはんこく)…15分。

1つ…1人、1個、1つ。数の数え方。

数…人数

 ハルカがトイレのドアを締めたのを確認して、俺はリードに向き合った。

 これからのことについて話し合わなければ。



 つくづく、今日は予想外のことばかり起こるな。思い出したらため息がでる。

 今日は朝から酷く冷え込んで、住民の多くが休眠状態になり、ルシェモモの街の機能が著しく低下した。



 俺たち戦士は陽球(ようきゅう)を支給されているため、日の出の頃には身体が動く。

 陽球は、決まった時間になると明かりが強くなって同時に熱を放つという、身体の目覚めを早めてくれる便利な代物だ。



 特に俺のような単色(たんしょく)の戦士は、暖まるのが早いため、活動が早い。

 しかし、今朝はさすがにきつかった。なかなか身体に力が入らず、身支度にかなり手間取ったものだ。



 「お疲れ様です。クルビス。」



 「ああ。まさかこんな事態になるとは思わなかった。」



 俺のため息にリードが苦笑する。

 俺は朝からの騒ぎを思い出して、もう一度ため息をついた。







 *******************




「やはり少ないな。」



 思わずつぶやく。1階の食堂へ降りていくと、早い時間とはいえ、明らかにいつもより空きイスの数が多かった。



「おはようございます。クルビス。今朝は冷えますね。」



 リードがローブ姿で降りてきた。

 確かに今朝はいきなり冷え込んだな。春なのに、まるで休眠期(きゅうみんき)のようだ。そのせいで身体が上手く動かない。



「おはよう。…冷え過ぎだ。身体が動かん。」



 憮然(ぶぜん)として応えると、リードが苦笑しながら言う。



「あなたでそうなら、他の隊士はしばらく動けないでしょうね。この状況も納得です。」



 食堂を見渡しながら頷いて、リードが俺の後に続いて並ぶ。並びながら今日の対策を大まかに決める。

 1日の予定を確認し合うのは、お互いに隊長職についてからのいつもの習慣だ。



「今日は動けるものから巡回に回す。班一つにつき単色を一つは入れよう。昼になればマシになるだろうが…ギリギリだな。」



 今食堂にいるメンバーの顔を見ながら考える。

 ここにいるシーリード族は単色のものばかり。他には寒さに強いフェラルド族やリードのような深緑(しんりょく)の森の一族ばかりでため息が出る。



 差を付ける気は毛頭無いが、得意とする能力は種族ごとに違う。



 リードのような深緑の森の一族は、『知恵と知識の民』と呼ばれ、その名の通り医師や術士といった頭を使う仕事に向いている。記憶力も良いので文官職に就く者も多い。



 フェラルド族は『流星』と呼ばれ、スピードが他の種族と比べて格段に早い。その分脚の力も強く、足技を中心とした体術を得意としている。

 リードたちと同じく深緑の森に住む種族だが、伝令役として重用されるため、成人した一族は世界中に散らばって外貨を稼いでいるらしい。特徴として小柄な体格をしている者が多い。



 俺たちシーリード族は『技術の民』だ。手先が器用なため、様々なものを作る。また、基本的に身体が強く、魔素を操れるため、身体能力が総じて高い。そのため、力も強く体格のよい者が多い。何よりこのルシェモモはシーリード族の街、数が1番多い。



 他にもいろいろな種族がいて特技を持っているが、今食堂に集まっているのはこれだけだ。何より戦士部隊の隊士の数が普段の半分以下なのがキツイ。

 …ため息も出ようというものだ。








 *******************




 ルシェモモの街は、大昔は何もない荒野だったらしいが、偉大な祖先たちの努力によって世界有数の大都市にまで発展した。

 現在では、その技術を学ぶため様々な種族がここにやって来る。そのため、職人の数・質共に世界一だ。



 街が発展するのは大いに結構だが、数が増えれば揉め事も増す。街の平和を守るのが俺たち守備隊(しゅびたい)の仕事だ。



 …だが、1番数が多いシーリード族が動けないとなると、巡回に回す数が絶対的に足りない。

 フェラルド族は全体の中では少数派だし、深緑の森の一族は医療部隊や術士部隊に所属しているものが多く、普段なら巡回の班には1つか2つしか配属しない。



 それを全て巡回に回さなくてはならないだろう。守備隊本部が手薄になるが、仕方ない。

 舌打ちしたい気分で、今いるメンバーを見ながら頭の中で朝の巡回の班を組んでいく。



 …それでも深緑の森の一族やフェラルド族が多い分、うちはマシな方だろうな。



「ええ。医療部隊は全て使ってください。…術士部隊も恐らく大丈夫でしょう。もう少ししたらキィが降りて来るでしょうから、そこで話を詰めましょうか。」



 同じことを考えたのか、リードが珍しく険しい表情で頷く。ここでこの状態なら、他の地区の守備隊は壊滅的だろう。



「そうだな。…救援要請も頭に入れておかないとな…。」



 俺はリードに頷きながら、これから起こりうる可能性も考える。



 このルシェモモの街は大きい。

 東西南北と中央の五ヶ所に守備隊はあるが、この北地区が最も大きく、守備隊だけでかなりの範囲を見なくてはならない。地区内に幾つか詰め所はあるものの、くまなく回るにはとにかく数がいる。

 それは他の地区の守備隊も同じだ。



 …しかし、この急な寒さが続くなら、寒さに弱い種族が多い地区はかなりの打撃だ。動ける数が多いところから、巡回の班を回さないといけないだろう。

 うちが1番、数が多いしな。



 もちろん、基本的に種族は固まらないようにしてある。東西南北に均等になるよう配属されているが、地区ごとの特色を反映して多少の差はある。

 戦力的に大きな差はないため、普段なら何の問題もないのだが…。








 *******************




 食事を受け取って、空いている席につく。あらかた食べ終わった頃にキィが降りてきた。



「おおーすっ。おはようさん。寒いなぁ、今日は。」



 何時通りののん気な様子に、食堂の空気が軽くなる。

 キィは術士部隊の隊長で、守備隊の隊長格の中では最年長だ。普段はのん気な調子だが、いざという時の判断力と行動力は誰もが一目置いている。



「いやはや。まいった、まいった。キーファに起こしてもらったけどよ、身体が言うことを聞かねーのなんの。こりゃあ、他んとこはやべえだろうなぁ。」



 食事を持って、キィが俺たちの席に来る。空いてる席に座って、先程の俺たちと同じ懸念を口にする。

 現状から考えて、ルシェモモ全体の巡回の数は絶対に足りてない。この機に乗じて、泥棒や強盗の類が増える可能性が高い。



 このルシェモモは技術都市だ。ネジ1つ、布1つでも金になる。



 常日頃ならば、地区内の各詰め所にいる隊士たちに加えて、各地区の守備隊本隊の精鋭が巡回することで犯罪防止に勤めている。

 さらに、各工房では個人認証付きの入口や工房内の防音設備の設置は義務付けられているし、自宅に仕事を持ち帰るのも禁止されているため、盗みに入ること自体が難しい。



 しかし、今日のような状況なら、動けない住人が大半で、多くの工房は空に近い状態になる。多少強引に押し入っても、気付かれる前に盗んで逃げおおせてしまうだろう。



 そうならないように、工房街と転移局のある広場を中心に、巡回の回数は何時もより増やさなくてはならない。



 …なのに巡回に回れる隊士の数は通常の半分だ。頭がいたくなってくる。







 *******************




「…んで?どーするよ。

 今んとこ、うちで動けるのは、オレとキーファとキースとユーリ、後、リッサにゲイン、クルスにミカ…こんなもんだな。残りのやつらは、今キーファとキースが水式(みずしき)で温め回ってる。

 1(とき)のうちには全員そろうぜ。」



 キィが食事をしながら術士部隊の状況を教えてくれる。さすが精鋭。一等術士は仕事が速いな。今動ける数だけでもありがたいのに、1(とき)後には15の隊士が全員そろうなんて。



「さすがだな。ありがたい。

 単色でまだ起きてないやつらが幾らかいる。そいつらを優先して術式をかけてやってくれ。

 …後は…そうだな、全員そろったら、半分は隊士を起こす作業に、もう半分は工房街の転移局のサポートに回ってくれ。」



 とにかく、隊士の数を増やしていかないといけない。転移局の方も、利用者は減るだろうが職員の数が足りないはずだ。逃亡対策としても、戦える術士がいた方がいいだろうしな。



 俺がそう言うと、キィが頷きながら食事をかきこむ。



「ま、妥当なとこだな。リードんとこはどうすんだ?」



「うちは全員動けますから、巡回に入れてもらいます。

 …どうせ、この状況なら医務局の方も開店休業ですよ。念のため、私は1日医務局に詰めてるつもりです。」



 キィの質問にリードがスラスラ答える。すでに、部隊の方針は決めていたようだ。



「ん。りょーかいっ。んじゃ、俺も空いてる連中連れて、たたき起こしに行ってくるわ。

 全員そろったら、半分おめーのとこ行かせるぜ。」



「ああ、俺はここにいる。ここに来させてくれ。

 連絡機はここにもあるからな。…上は不便だ。」



 立ち上がったキィの話に訂正を入れる。

 俺のやることと言ったら、班組みと各所との連絡を取ることくらいだ。ここで十分出来る。



 …俺の執務室は最上階に近く、こういう時、いちいち連絡を取るのに移動だけで時間がかかる。

 今は時間との勝負だ。6(こく)迄には、体制を整えないと。






 *******************




「…わかった。後ぁ任せるぜ!」



「ああ。そっちこそよろしく頼む。」



 こちらの意図するところを汲んでくれたらしく、キィは一つ頷いた後、手を振りながら食器を片付けに行く。俺はその手に応えながら背中に声をかけて、リードの方を向く。



「…クルビス、第1班はいつ頃出ますか?」



 リードが俺に現状での最優先事項を確認してくる。

 第1班はすでに決めてある。食堂にいた顔を見て決めた。



「第1班の出発は四半刻後だ。

 南にリュイ、スー、カラ。場所は工房街南口から本屋街。東にはヴォルフラム、サーフェイス、クルー。場所は工房街北口からミレー通りを中心に星街(ほしまち)へ行け。

 …残りのやつは他の詰め所と連絡が取れ次第、巡回に回る。」



「…聞いてましたね?

 医療部隊は私以外は全員巡回の班に入りなさい。今通達のあった班は直ちに準備を。

 他は準備してこの場で待機しなさい。」



 リードの質問に、すでに決めてあった班を食堂内に向かって答えて、北の本隊から最も遠く尚且つ高価で運びやすい本を扱う本屋街と、次に高価な魔道具を扱う星街(ほしまち)の警備を命じる。



 医療部隊の隊士はすでに全員そろっており、単色のやつらとよく組む4つがいたので即決した。



 俺の返事を聞いて、リードが医療部隊に指示を出す。すぐに全員が動き出した。



「…さて、私は医務局に行きますね。

 この異常気象です。住民だけじゃなく、隊内でも、このままだと体調不良を訴える方がいるやもしれません。」



「…そうだな。ありそうだ。隊士で具合が悪いやつは休ませよう。明日がどうなるかわからないからな。無理はさせられん。」



 食器を片付けながらリードと話す。

 リードの言う通り、いまだ隊士がこれだけしかそろわないなら、暖かくなっても動けないやつがいそうだ。



 先程まで食堂にいたのは、俺たち隊長を除いて20。そのうち10が医療部隊で、そこに伝令役のフェラルド族と合わせると、残りの戦士部隊は単色が5つだけ。



…うちは総勢192の隊士がいるはずなんだがな。詰め所にいるやつらを除いても、本隊には58はいるはずだ。



 シーリード族の中でも、体色が1色だけのものを「単色」と呼ぶ。単色は総じて体色の色が濃く、身体に熱と魔素をためやすいので、身体能力が種族の中でも特に高い。気温の変化にも強いため、戦士としての能力は抜きん出ている。



 俺を含めて数が少なく、全体の1%ほどだが、基本的には守備隊に所属している。北の守備隊には30。そのうち常に10は各詰め所に班長として配置している。



 一応この後連絡を取るが、単色のいる詰め所は大丈夫だろう。班の中に1つは気温差に強い種族を入れてあるし、詰め所には防寒具も置いてある。

 何より、詰め所の勤務は夜間警備が主で、昼交代だ。起きているなら、すでに何らかの対応はしているはずだ。



 問題は、本隊にいる残りの20だ。そのうち5つは勤務経験が多く、今朝の異常気象にも対応出来た。

 …顔を見たかぎり、今日は休みのやつがいたな。この事態が収束したら、休みをやろう。



 残りの15の単色は、今いる個体に比べて色が淡かったり、経験の浅い個体が多い。慣れない気温に対応出来ないんだろう。

 さっきキィに頼んだから、もう少しで動けるようになった単色がそろうだろうが…半分くらいかもな。



 …第1班に2つ単色を振り分けた。残りは3つ。転移局近くの詰め所に振るか…いや、確か報告では、負傷者を運んで1つこちらに戻ってきていたはずだ。

 なら、深緑の森出口の詰め所には2つしか詰めてないはず…地区出入り口の当番を確認しなくては。



 リードと別れて、俺は単色の詰めている主だった詰め所に連絡を取り始めた。

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