第19話 身だしなみはきちんと
「あ、いえ、足が軽くなっていて驚いたんです。すみません。」
慌てて首を横に振って否定する。
心配かけてごめんなさい。振る舞いには気を付けなきゃ。
「随分良くなったようですね。ですがクルビス、念のため補給は続けて下さい。」
ホッとしたようにフェラリーデさんが言い、言われたクルビスさんも頷いた。
まだ手をつないだままなんですね…お世話になります。
「では、こちらへどうぞ。…足元に気を付けてくださいね。」
穏やかに微笑みながら、フェラリーデさんが案内してくれる。
クルビスさんのエスコートでゆっくり歩いてついて行った。
先程フェラリーデさんがお茶を取りに行ったドアを抜け、向かって左手、手前側のドアに近づく。
「こちらです。一応全てご説明しますね。…中はこのようになってまして、このように座って使います。用を足した後はこちらの紙を使って拭いて下さい。全て終わりましたら、こちらのタイルを押して下さい。水が流れます。…ここ迄はよろしいでしょうか?」
フェラリーデさんの説明にこくこく頷く。
頷くのは肯定だ。さっきクルビスさんがしてた。
事務的な説明ありがとうございます。
恥かしさが薄れました。
便器は白いすり鉢状の磁器にドーナツ状のフタが付いていた。
水洗トイレなんだ。しかもトイレットペーパーまであるなんてっ。
清潔感があって嬉しい。ホント助かる。
「後は、こちらで手を洗って下さい。手をかざせば水が出ますからね。その後に、この葉を水に溶かして手にすり込んで下さい。手が清潔になります。」
フェラリーデさんが葉っぱを水に溶かしてすり込みながらお手本を見せてくれる。
自動蛇口に石鹸?まであるなんて、日本と一緒だ。やった。
「わかりました。お手本まで見せていただいて、ありがとうございます。私の国の設備とほとんど同じのようです。」
胸に手をあて礼をすると、クルビスさんが手を離して私のそばから離れる。
「もういいな。俺は外に出ている。」
「ええ。大丈夫そうですし、私も外に出ます。ドアのこのツマミがカギですが、万一のため、かけないで下さいね。何かあったら声をかけてください。」
「はい。わかりました。」
フェラリーデさんに頷くと、おふたりは出て行き、私は引き戸のドアを閉めた。
カバンを洗面台の下にカバンを置いて、折りたたみ式の鏡とクシを出す。
思った通り、髪はほつれてボサボサだった。
シュシュと髪ゴムを取って、クシを通して手早く髪をまとめ直す。
メイクもチェックしたが、そこ迄くずれていなかった。
さすがウォータープルーフ。メイクはこのままでいいでしょ。
待たせているのがわかっているため、素早く身だしなみをチェックした後、片付けてトイレを使うことにした。
さっき見せてもらった通りに使うと、手を洗って例の葉っぱを水に溶かしてすり込む。スーッとする感じがして、スッキリした。
石鹸というよりアルコールみたい。清潔になるって言ってたし。
それにしても整った設備だ。技術が高いんだろうな。
水を流す設備は難しいと聞いたことがある。
そんなことを思いながら、底をはらってカバンを持つ。
ドアを開けると、部屋の真ん中にクルビスさんとフェラリーデさんが座っていた。クルビスさんが立ち上がり、近づいてくる。
スッと右手を差し出してくれたので、申し訳なく思いながらもありがたく左手を乗せた。
ニッコリ微笑み感謝を示すと、またフイッとそっぽ向かれた。
(…だから何で?まあいいや。トイレ借りたお礼言わなきゃ。)
「ありがとうございました。…お待たせしてしまいましたか?」
胸に手をあてて礼を取ると、フェラリーデさんがふわりと微笑んだ。
「いいえ。では、隣の部屋に戻りましょうか。」




