第18話 美味しいお茶
「本当に幸運が重なったんですね。私が出たところにポムの小道があって、実を見つけられたなんて…。」
しみじみつぶやくと、フェラリーデさんが果物を横に除けて、あの丸いポットを差し出してくれる。
「ええ。本当に僥倖でした。お話をお聞きする限り、魔素不足を起こしただけのようですので。
さぁ、カップをこちらへ…まだお茶はありますから、遠慮なさらずに飲んで下さいね。魔素が不足している間は、どれだけ補給しても足りないことはありませんから。」
「ありがとうございます。いただきます。とても美味しいお茶ですね。」
ありがたくカップを渡しながら、フェラリーデさんの診断に安心する。
やばい状態には変わりないけど、自分の状態がわかるだけでも安心だ。
(お茶を進められるってことは、まだまだ魔素が足りてないってことよね?
…とりあえず、魔素不足ってだけなのがわかっただけでも良かった。)
右も左もわからない世界で、知らない間に死にかけてたなんてシャレにもならない。
治療してくれるんなら、喜んで受けますとも。
薬が美味しいお茶だしね。
実際まだ喉が渇いていて、このお茶ならいくらでも飲めそう。
「私の故郷のお茶なんですよ。ポムの木の皮を加工して作るんです。たくさんは採れませんが、香りが良く、効能が高いため、広く親しまれてるお茶ですね。」
フェラリーデさんが嬉しそうに話してくれる。
故郷のお茶かあ。褒められたら嬉しいよね。
(美味しいお茶だもんね〜。お薬が美味しいお茶なんてうらやましい。こっちには「良薬口に苦し」とか無さそう。)
フェラリーデさんからカップを受け取り、お礼を言って、口を付ける。
もちろん、今迄もお礼を言う時の笑顔は歯を見せないようにするのは忘れない。
「ありがとうございます。」
口を閉じて、ニッコリ微笑む。笑顔は大事だ。
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しばらくお茶の香りと味を楽しむと、すでに飲み終えているおふたりがこちらを見ているのに気付いた。
…私の顔に何か付いてるのかな?
ハッ。そういや、森の中で結構汗かいたから、メイクがっっ。
髪もボサボサになってるかもっ。
(か、鏡っ。鏡が欲しいっ。トイレに行きたいっ。)
急に自分の状態が気になり出す。
髪も一つくくりだし、メイクといっても日焼け止めにポイントメイクだけだけど、気になるものは気になる。
急いでお茶の残りを飲み干して、フェラリーデさんに尋ねる。
「あの。…お手洗いは何処でしょうか?」
フェラリーデさんがハッとしたように立ち上がる。
「こちらです。…使い方はわかりますか?」
全くわかりません。異世界初トイレですから。
「あの…たぶんわからないと思うので、教えていただけますか?」
ちょっと恥ずかしいけど、知らないものはしょうがない。今の自分の姿が気になり出したまま話を続けるのは無理ですっ。
「では、こちらへどうぞ。念のためクルビスも入口まで付き添って下さい。」
フェラリーデさんについて行こうと立ち上がると、足が軽くなってるのに気付いた。
「足が…。」
思わずつぶやくと、フェラリーデさんが、
「大丈夫ですか?ポム茶を2杯飲みましたから、随分楽になったはずですが…。」
と、心配そうに言ってくれる。クルビスさんも私に近づき、心配そうに見つめている。
…そういや私、重症患者だった。




