第16話 まだまだ知らないことばかり
フェラリーデさんが苦笑しながら教えてくれた。
「ええと、サトミハルカさん…でしたね。歯を見せるのも威嚇になります。笑う時は、口を閉じて微笑むか、顔を上に向けて声を出して笑うかですね。」
歯もダメなんですかっ。
…そうか、それで広場で降ろしてもらった時にお礼言ったら固まったんだ。
歯を見せて笑ったから。
「あ、遥加です。里見は家名で遥加が個人名です。どうぞ遥加と呼んで下さい。」
とりあえず、名前の訂正はしとこう。衝撃がまだ抜けないけど。
(じゃあ、クルビスさんびっくりしただろうな~。私もびっくりしたけど、悪いことしたなあ。知らなかったからしょうがないけど、助けてくれたのに威嚇って…。)
これは早いとこ基本的なことを聞いとかないとマズいなあ。
とにかく謝ろう。知らなかったとはいえ、失礼なことしたし。
「えっと…、驚かしてすみませんでした。私のいた国とはずいぶん習慣が違うみたいです。何かおかしな事をしたら、すぐおっしゃって下さい。」
クルビスさんの方を向いて目を見て言う。頭を下げる代わりに右手を胸にあてて軽く上体を傾ける。
とりあえず、予防線を張っとこう。何かまたやらかしそうだし。
「いや、ずいぶん遠い国から来たようだ。ハルカ、…何故あそこにあんな状態になるまでいたんだ?」
クルビスさんがゆるく首を振って気にしていないと教えてくれる。
首を横に振るのは否定みたいだ。同じで助かる。
…いいひとだなあ。人間じゃないけど、それが逆に彼の行動を際立たせる。
これまでも驚かせたのに、手はずっと繋いだままでいてくれた。
このひと達なら聞いてくれそうだ。
話せるだけ話してみようか。
「それが…私にもよくわからないんです。気が付いたら森の中で…。
信じてもらえないと思いますけど、本当なんです。何時も通り仕事に行くところだったのに、歩いていたらいきなり森の中にいました。
…どうしてこうなったのか、私が聞きたいくらいです。」
聞かれたことにしどろもどろで答える。
答えになってないのはわかってるけど、私にだって何でこうなったかはわからないから、ありのままを話した。
気がついたら見知らぬ土地にいたなんて、頭がおかしいと思われるかもしれない。
でも、すでにいろいろやらかしてるから、今さら誤魔化しようがないし、正直、隠す意味は無いと思ってる。
話を聞く限り私の状態はかなり異常だったみたいだし、言動も奇妙だったろうし。ホントに今さらだ。
それに、危篤状態だったとはいえ、こんな怪しい見知らぬ女を助けてくれるんだから、信用していいと思うんだよね。
今迄の様子から見ても、クルビスさんもフェラリーデさんも礼儀正しいし落ち着いてるし、私の話を聞こうとしてくれてる。
だったら、私もそれに応えなきゃ。
「…今、森の中とおっしゃいましたね?ハルカさん、あなたは深緑の森から来られたのですか?」
フェラリーデさんが緊張した様子で聞いてくる。私が答えようとしたら、クルビスさんが話してくれた。
「ああ、俺が何時もの巡回に行ったら、ポムの小道に立っていた。見かけない衣装にこの色だ。最初は不審に思って話しかけたが、言葉が通じないとわかって慌てて連れてきた。
ポムの小道のかなり奥にいたから、時間が惜しくて俺が担いで森を抜けて、街に入ってからは魔素を補給しながら連れてきた。…俺からはこれくらいだな。」
ありがとうございます。非常に簡潔でしたね。
そんでもって、担がれたのは緊急搬送だったんですね。ホント、ヤバかったんだな。
「ありがとうございますクルビス。よくわかりました。ポムの小道にいたんですね。…それであんな状態でも立っていられたんですねぇ。」
フェラリーデさんが納得したように頷く。
どういうことでしょう?
今度こそ説明プリーズ!




