表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トカゲと散歩  作者: *ファタル*
本編4森の中へ
167/168

第150話 傍にいて

これにて、第一部完結です。

第二部の「トカゲと散歩、あなたと一緒」もよろしくお願いします。

「何か、冷やすものを持ってこよう。」



「いっえ…。こ、こにい、て…。」



 クルビスさんが気遣ってくれたけど、私は傍にいて欲しいと頼んだ。

 つっかえつっかえだったから、通じてるか怪しいけど。



「…ハルカがそれでいいなら。」



 通じた。良かった。

 ちょっと、思考の迷路に迷い込んでたんだよね。



 あのまま思考の迷路に居続けるのはしんどかったかも。

 クルビスさん、ナイスタイミング。



 そんなことを考えていると、ふわりといい香りがした。

 ほとんど鼻が利いてない状態だったけど、それでも、さっきまでとは違う匂いがしてるのがわかる。



 クルビスさんが、カップを差し出してくれるのを素直に受け取る。

 手が震えそうになったけど、こぼすと私の膝の上が惨事になるので我慢。



「リコの茶だ。飲むと落ち着く。後、菓子も少し用意した。」



 ああ。これが…お茶?というか、飲み物?

 …いえね?文句言いたいわけじゃないんですけどね?



(何でラベンダー色なんだろう…。)



 やっぱり、こっちの飲み物はカラフルなんだな。決定。

 しかし、飲むのに勇気がいるなぁ。



(でも、地球でもハーブティーで紫っぽいお茶はあったはず。こっちの水が白いことを考えたら、この先パステルカラーな飲み物には遭遇しやすいってことよね?)



 要は慣れが必要ってことですね。

 色はパステルカラーでも、さっきのいちごミルクなお茶みたいに飲みやすいかもしれないし。



 覚悟を決めて、一口飲む。

 すると、ふわりと口の中に香ばしい香りが広がった。



(わ~。美味しい。香もラベンダーっぽいかも?)



 口に広がった香りに感動しつつ、自分の良く知るその香りに見当をつけた。

 アロマ用に持ってた香油のラベンダーは少し刺激があるくらいだったけど、これは、もっと柔らかくて鼻につかない感じだ。



 これなら、美味しくいただけそう。でも、詰まった鼻が残念。

 せっかくの香りがほとんどわからないんだよね。



 ズッ



 軽く鼻をすすると、クルビスさんが壁にある棚から箱を出してくれた。

 蓋を開けると…ティッシュが入っていた。



(トイレットペーパーがあるんだもん。ティッシュくらいあるか。…にしても。)



 異世界トリップした先がここでよかった。

 クルビスさんに礼をして、ありがたくティッシュを受け取る。



 2~3枚使って鼻をかむと、少し気持ちが落ち着いた気がした。

 わっ。すごい香りが一気に鼻に入ってきた。



 鼻かんでよかった~。

 いくら飲んだらわかるとはいえ、やっぱり香りを楽しむにはちゃんと鼻が利かないとね。



「…美味しい。」



「良かった。」



 思わずつぶやいた言葉に、クルビスさんがつぶやく。

 あ、心配かけちゃってたんですね。そりゃそうか。大泣きしてたんだもんね。



 目が腫れぼったいし、喉もガラガラだ。

 酷い顔なのが、言われなくても想像できる。



「ありがとうございます。…落ち着きました。」



「いい。今日1日でたくさんのことがあった。気持ちの整理が追い付かなかっただろう。」



 見抜かれてますね。ええ。さっき追い付いて、一気に限界にきちゃいました。

 そんで、涙が止まらなくて泣いてましたよ。



「泣けるのはいいことだ。どこかで気持ちを吐き出さないと、魂に(ひず)みができる。」



 ひずみ…。聞きなれない言葉ですが、要は、我慢は身体に良くないってやつですね?

 フォローありがとうございます。



「…俺がいる。」



 …はい?



「傍にいる。1つで抱え込んだら、持たないだろう。普通の状況じゃないんだ。」



 …何でわかるのかな。

 泣いて、泣いて、それでも追い付かなくて。



 苦し過ぎて、息も出来ないのに、まだ終わらなくて。

 クルビスさんが来てくれなかったら、呼吸がまずいことになってたと思う。



 自分でも止められないくらいの激情が今の私の中にはある。

「何で私なの?」…その思いが身体をバラバラにしそうなくらい暴れている。



 起ったことに文句を言っても仕方ないんだけど、今はとても止められそうになかった。

 現に、クルビスさんと話してる今も「何でこのひとに会ったんだろう?」って頭のどこかで考えてる。



「ずるいですよ。…縋っちゃうっっでしょっう?」



 言いながら、また涙で視界が滲み出した。

 クルビスさんがカップを受け取ってくれて、空いた手を顔に当てる。



 ふわっ



 すると、柔らかい布で身体を包まれて、その上から抱きしめられた。

 力なんて全然入ってない、私を気遣った優しいハグだ。



 ああ。落ちたのがここで本当に良かった。

 ――このひとの傍でよかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=830034175&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ