第147話 私の立場
「そんなっ。メルバさんのせいじゃないです。…方法が無いんですから、仕方ないですよ。」
私がそう言うと、すまなそうな顔でメルバさんが微笑む。うぐっ。
さすがエルフ。メルバさんもかなりの美形だから、困った顔で微笑まれると破壊力が半端ない。
いやでもホントに、メルバさんが肩を落とすことなんてないですし。
あー兄ちゃんのことがあるからか、メルバさんとても親身になってくれてるんだよね。
異世界で頼れるものがない身としては、すごくありがたいと思う。
でも、困ったなあ。この空気、どうしよ。
「メルバ。話は終わったか?良ければ、俺からハルカの今後について話したいんだが?」
私がおろおろしていると、ルシェリードさんが新しい話題に移ってくれる。
メルバさんが頷いたのを確認して、ルシェリードさんが私を見て話し始める。
「長くなってはいかんだろうから、簡単に話そう。まず、明日からだが、ハルカにはこの世界について勉強してもらう。最低限の知識が無くては生活できんからな。」
そりゃそうですよね。
街の様子をちょっとだけ見たけど、何がどうなってるのか全然わからなかったし。
出来れば読み書きも教えていただけると助かります。
私が頷くのを確認しながら、ルシェリードさんが話を続ける。
「むろん文字の読み書きもだ。ルシェモモでは読み書きは必須だからな。
幾つかの言語があるが、広く使われているものを習得してもらうことになるだろう。講師はリードだ。」
読み書き教えてもらえるんだ。ラッキー。
しかも、講師はフェラリーデさん。最初の説明もわかりやすかったし、良い先生になりそう。
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。わからないことがあったら、何でも聞いて下さいね。」
フェラリーデさんと挨拶をすませると、ルシェリードさんが今度はメルバさんを指した。
まだあるんですね?
「で、ここでの生活には魔素を扱えることも必須でな。それはメルバが教える。」
「もう、指さないでよ。僕はしばらくこっちにいるからね。ルシンと一緒にやることになるよ。頑張ろうね。」
「はい。よろしくお願いします。」
ルシン君とか。
大変そうだけど、楽しくなりそう。
「うん。いいお返事。よろしくお願いします。」
「ここまでが、ハルカがここでやることだ。習得できるまで、しばらくここで過ごしてもらうことになる。その後のことは追々話そう。それで、ハルカの身元なんだが…。」
表向きの身元ですね。「異世界出身です」って言うわけにいきませんもんね。
生活するにはハッキリした身元って大事です。
「ハルカは、ここからかなり北にある辺境の村の出身ということになった。
以前は村があったが、今はもうない。そこの生き残りという設定だ。
俺の翼で数日飛ばないとたどり着けんような場所だから、村の無い今、誰も知る者はいない。」
辺境の村の出身か。
それなら、何かおかしいことをしても、「知らなかった」で通せるかな。
「そこは、海と山に挟まれていてな。メルバから聞いたハルカの故郷の気候と似通っている。
季節の節目がはっきりしていて、雪が降る。果物だけでなく、海の幸も山の幸もよくとれるから、話していて不自然にはならんだろう。」
メルバさん情報ってことは、元はあー兄ちゃんだな。
お話の通りの土地なら、確かに似てる。これならボロが出にくいかも。
「ハルカはそこでたった1つで生活していた。だが、たまたま休暇で飛んでいた俺に見つけられて、ルシェモモに来るように勧められ、そうすることにした。
しかし、転移の失敗で森の中に出てしまい、クルビスに保護された。
…これが、ハルカがこっちに来た表向きの理由だ。今ここにいる理由にもなる。」
しっかり覚えないと。自分のことを忘れましたって言うわけにはいかないもんね。
メモ帳が欲しいなぁ。筆記用具も。




