第146話 私が来た理由
「何で自分がこっちに来たのかわからないって顔だね?」
顔に出てましたか。
でも、今の説明だと、その網の目をくぐって私が来たことになりますよね?
「基本的には通れないんだけどね。世界っていうのは、他の世界とは常に近づいたり離れたりしてるんだ。で、たまにぶつかる。」
あ、それルシェリードさんに聞いた話と似てる。
世界は泡のようなもので、常にくっついたり離れたりしてるって。
「そのぶつかった瞬間に網目がゆるむことがあってね。その中にハルカちゃんは放り込まれたんだよ。」
つまり、偶然だと…。
宝くじより低い確率な気がする。当っても全然嬉しくないけど。
「そこは偶然…なんでしょうか?」
「う~ん。むかーしにね、あーちゃんに聞いたんだけど、住んでた街に「神隠し」の伝説があるんだって?それが関係してるかも。」
「桜隠し」の伝説…。あー兄ちゃん知ってたんだ。まあ、あー兄ちゃんの好きそうな話だもんなぁ。
というか、私、あー兄ちゃんに勧められてあの街に住んでたんだけど。
「えっと。そうですね。
確かに、「神隠し」…古くは「桜隠し」の伝説がありました。桜というのは綺麗な花が咲く木です。それが消えるっていう伝説です。
…今朝、私が通った公園にもその名前がついていました。地名だと思ってたんですけど…。」
私の答えにクルビスさんとフェラリーデさんが顔を見合わせる。
ルシェリードさんとメルバさんは何事もなかったような顔してるけど、これは経験値の差かな。
「地名じゃなかった、てことか。それっぽいねぇ。
あーちゃんもそれに引っかかったから、異世界に来たんじゃないかって言ってたんだよね。」
あー兄ちゃんも…。やっぱり同じこと思ったんだ。
都市伝説体験しちゃったなって思ってたけど、まさか身内まで体験してたなんて。
「古い言い伝えだとばかり思ってました。」
「そういうのって結構重要なんだけどねぇ。まあ、ヒト族は寿命が短いから、話が風化するのが早いのは仕方ないんだけどね。」
単なる偶然じゃなく、そういうことが起こりやすい場所にいたってことか。
う~ん。知らなかったとはいえ、事実だけみたら自業自得かも。でも、私以外にもいないのかな?
「私だけなんでしょうか?街には他にもたくさんの人がいたのに…。」
「…それこそ、たまたまなんだろうね。
もともと異世界と繋がりやすい土地っていうのは、繋がりやすい時間帯があるんだよ。1番繋がるその時間、その場所にたまたまハルカちゃんがいたんだね。
運が良かったよ。繋がりが半端なとこにいたら、世界がぶつかった衝撃を受けて死んじゃってた可能性がある。
…いきなり倒れて死んじゃうヒトっているでしょ?たまに。あれってそれが原因だったりするんだよね。」
…宝くじ以上の幸運だった。当ってバンザイ。
フェラリーデさんとお話してた時も思ったけど、私、人生の幸運使い果たしたかも。
「まあ、世界に呼ばれて~とか、世界を救ってください~とかじゃないんだし、ここでの生活を楽しめばいいよ。…返してあげられないのは、申し訳ないんだけど。」
すまなさそうにメルバさんが言う。
いえいえいえ。そんな。メルバさんのせいじゃありませんから。




