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トカゲと散歩  作者: *ファタル*
本編4森の中へ
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第146話 私が来た理由

「何で自分がこっちに来たのかわからないって顔だね?」



 顔に出てましたか。

 でも、今の説明だと、その網の目をくぐって私が来たことになりますよね?



「基本的には通れないんだけどね。世界っていうのは、他の世界とは常に近づいたり離れたりしてるんだ。で、たまにぶつかる。」



 あ、それルシェリードさんに聞いた話と似てる。

 世界は泡のようなもので、常にくっついたり離れたりしてるって。



「そのぶつかった瞬間に網目がゆるむことがあってね。その中にハルカちゃんは放り込まれたんだよ。」



 つまり、偶然だと…。

 宝くじより低い確率な気がする。当っても全然嬉しくないけど。



「そこは偶然…なんでしょうか?」



「う~ん。むかーしにね、あーちゃんに聞いたんだけど、住んでた街に「神隠し」の伝説があるんだって?それが関係してるかも。」



「桜隠し」の伝説…。あー兄ちゃん知ってたんだ。まあ、あー兄ちゃんの好きそうな話だもんなぁ。

 というか、私、あー兄ちゃんに勧められてあの街に住んでたんだけど。



「えっと。そうですね。

 確かに、「神隠し」…古くは「桜隠し」の伝説がありました。桜というのは綺麗な花が咲く木です。それが消えるっていう伝説です。

 …今朝、私が通った公園にもその名前がついていました。地名だと思ってたんですけど…。」



 私の答えにクルビスさんとフェラリーデさんが顔を見合わせる。

 ルシェリードさんとメルバさんは何事もなかったような顔してるけど、これは経験値の差かな。



「地名じゃなかった、てことか。それっぽいねぇ。

 あーちゃんもそれに引っかかったから、異世界に来たんじゃないかって言ってたんだよね。」



 あー兄ちゃんも…。やっぱり同じこと思ったんだ。

 都市伝説体験しちゃったなって思ってたけど、まさか身内まで体験してたなんて。



「古い言い伝えだとばかり思ってました。」



「そういうのって結構重要なんだけどねぇ。まあ、ヒト族は寿命が短いから、話が風化するのが早いのは仕方ないんだけどね。」



 単なる偶然じゃなく、そういうことが起こりやすい場所にいたってことか。

 う~ん。知らなかったとはいえ、事実だけみたら自業自得かも。でも、私以外にもいないのかな?



「私だけなんでしょうか?街には他にもたくさんの人がいたのに…。」



「…それこそ、たまたまなんだろうね。

 もともと異世界と繋がりやすい土地っていうのは、繋がりやすい時間帯があるんだよ。1番繋がるその時間、その場所にたまたまハルカちゃんがいたんだね。

 運が良かったよ。繋がりが半端なとこにいたら、世界がぶつかった衝撃を受けて死んじゃってた可能性がある。

 …いきなり倒れて死んじゃうヒトっているでしょ?たまに。あれってそれが原因だったりするんだよね。」



 …宝くじ以上の幸運だった。当ってバンザイ。

 フェラリーデさんとお話してた時も思ったけど、私、人生の幸運使い果たしたかも。



「まあ、世界に呼ばれて~とか、世界を救ってください~とかじゃないんだし、ここでの生活を楽しめばいいよ。…返してあげられないのは、申し訳ないんだけど。」



 すまなさそうにメルバさんが言う。

 いえいえいえ。そんな。メルバさんのせいじゃありませんから。

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