第142話 頼りにしてます
「…ハルカ。その、何でもいい。疑問に思ったことや、愚痴でも何でも、今見たいに気軽に話してくれ。」
急にどうしたんだろう?
頼りにしてますよ?いつだって。
(最初に会った時から、きっと、私はこのひとに頼りっぱなしなんだろうな。)
だって、守備隊に連れていかれるまでだって、逃げようと思えば逃げられたんだろうけど、そうしなかったし。
優しそうだなって思ったんだよね。紳士だなって。担がれたけど(笑)
「頼ってますよ。ずっと。頼りっぱなしじゃないですか。」
微笑みながら思った通りのことを言う。
あなたの他の誰を頼れって言うんです?
そんな気持ちを込めて見つめると、クルビスさんはまるで眩しいものを見てるみたいに目を細めた。
明かりが強かったかな?でも、調整の方法知らないんだよね。
「…なら、その、どうして、距離を、おくのだろう、か。」
とぎれとぎれに言葉を吐き出すクルビスさん。
え。距離?…何かやったかな。私。
(うん。マズい感じがする。何かこっちでやっちゃいけないことやったかな。
『距離をおく』って言葉通りの意味かな?なら、遠慮して距離を置いたあれだよね?)
高速で頭を回転させて自分のやったことを検証していく。
頭の中に出てきたのは、森を出てすぐに離れた時のこと。
(…他になさそうだなぁ。クルビスさん私に何か言いたそうだったもんね。)
とりあえず、嫌ってるわけではないことと、迷惑にならないようにしようと思ったことを伝えよう。
そもそも、日本ではなんの関係もない男女がくっつくっておかしい話なんだし。私のやったのって普通のことだよね?
女性たちに恨まれたくないっていうのも大きな理由なんだけど、これは言わなくていいか。
「…えっと、私の故郷では、夫婦や恋人同士でない限り、くっついたり抱き上げたりしないんです。
座るときもある程度の間を空けて座ります。だから、私にとって普通の距離を保とうとするクセはあります。
嫌ってるとかじゃないです。ホントに。」
一生懸命そう言うと、クルビスさんは軽く目を見開いて、それから胸に手を当ててきた。
え?これって礼の姿勢だよね?何で?
「それは、申し訳ないことをした。俺が抱きあげた時はずいぶん驚いただろう。先に確認するべきだった。」
えっ。いえいえ、確かに恥ずかしかったですけど、そこまでしていただくものではなくて、私が保身のためにやっただけっていうか、いつも通りのことをしただけっていうか。
「あ、あの、そんな顔を上げて下さい。えっと、好きですよっ。クルビスさんのことっ。だから、大丈夫ですっ。」
あ、言っちゃった。
クルビスさんがポカンとした顔でこっちを見てるし。どうしよ。




