第141話 食後はコーヒー
パスタとサラダを食べ終えると、クルビスさんも照れが収まったのかまたこっちを向いていた。
見られながらの食事って緊張するんだけど、たぶんこれ、私の様子の観察も入ってるんだろうなぁ。
パスタもサラダも美味しくいただいたから、大丈夫っていうのは伝わったかな。
さて、最後はデザートだ。ここの果物美味しいんだよね。
お昼の時よりは少なくて、半分くらい。それでも両手に収まるくらいのサラダボールに一杯入ってるから結構な量だ。
でも、パスタはチャーハンに比べたら少なかったから、余裕で入りそう。
「ハルカは果物が好きなんだな。故郷にも果物があるんだったな?」
「はい。果物は子供のころから好きです。
故郷のはみずみずしい果物が多いですね。果汁が多くて、絞って飲んだりもします。
それ以外にも、南のもっと暑い地域から伝わった果物もあって、それはこちらの果物に味が似てますね。」
マンゴーを口に運びながら、果物について知ってることを述べていく。
まろやかな甘みに頬がゆるむ。
美味しいものって偉大だよね。さっきまでの鬱々とした気持ちが吹っ飛んだ。
幸せな気持ちで食べていると、ふと静かなのが気になって横目でクルビスさんを見る。
うっ。何でか目を細めて微笑まれてる。
子供みたいに思われたかなぁ。ちょっと恥ずかしいかも。
何とも言えない微妙な気持ちで食べてると、山盛りの果物の中から白い果実が出てきた。
何だろ?お昼には無かったなぁ。
シャキッ
…これ、ポムの実だ。
え?何で?
疑問一杯にクルビスさんを見ると、私の手元を見て気付いたように話してくれた。
「ああ。それはあのポムの実だ。深緑の森の一族の長がな、『食べられるものを無駄にすることはない』とおっしゃられて、祖父さんも賛同して取りに行かれたんだ。」
ああ。たっくさん生ってましたもんね。
あのまま腐らせたらもったいないですよね。
クルビスさんの説明に納得して頷く。
「そうだったんですね。もう日も暮れようとしてたのに大変だったんじゃないですか?」
「そうでもない。シーリード族は夜目が利くからな。長も一族の中では夜目が利く方だ。」
はぁ~。ホントに身体機能が違うんだな。足の速さや力だけでなく、視覚もかぁ。きっと視力もかなわないんだろうな。
この世界って人間がいないけど、いたとしても能力が違い過ぎてラノベみたいに勢力を保つことは出来なかったんじゃないかな。
私、ここに残るとしても、生きていけるかなぁ。仕事あるの?
頭に浮かんだ疑問が重くのしかかる。
身体能力は一般のひとより劣るだろうし、ここの常識も全然ない。
雇うメリットがないなぁ。どうしよう。
フワッ
ん?いい香り。
香りをたどって目を向けると、クルビスさんがカップを差し出してくれていた。
「ありがとうございます。」
「カフェだ。少し苦いが、香りがいい。気分が落ち着く。」
受け取って一口飲んでみると、おいしいコーヒーだった。
…名前がカフェかぁ。何だかさっきからよく知ってる言葉ばかり聞いてる気がする。
「長が栽培してたカフェの木を祖父さんが気に入ってな。今ではルシェモモでは一般的に飲まれてる。」
長ってメルバさん?…出処ってうちのあー兄ちゃんだったりして。
あり得るなぁ。じゃあ、もしかしてパスタもかな?
実家のパスタは日本の家庭にしては珍しくいろいろな種類が出たんだよね。
さっき出された貝殻型のマカロニみたいな形や中に具を挟んだ小さな餃子みたいなパスタ、後、長い一般的な形ももちろん出てた。
ホントはいろいろ名前があるんだけど、うちではまとめて『パスタ』だった。
…あー兄ちゃんが教えた可能性高そうだなぁ。
「あの、パスタもですか?」
「ああ。深緑の森の一族の郷土料理の1つだな。ずいぶん昔に里に持ち込まれたらしい。元は異種族の料理だったそうだが。」
あー兄ちゃんだ。今の話を聞いて、私の中に確信が生まれる。あの貝殻型のマカロニ。本場ではこれもパスタの一種らしいけど、あー兄ちゃんが好きだったんだよね。
異世界行って何やってんだろう?他にもいろいろやらかしてそうだなぁ。
後で、メルバさんに聞いてみようかな。
…聞くのが怖いけど。




