第138話 神隠しの街
ほとんど回想です。
夏ですので、怪談調でどうぞ( ̄▽ ̄)
あ、怖い雰囲気が苦手な方は飛ばしてください。
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ーー君たち、知ってるかい?この街の『桜隠しの伝説』を。
…おー。何人か知ってるみたいだね。以外に有名なのかな?
ああ、佐藤さんは地元かぁ。それじゃ知ってるよね。
桜各っていうのはあて字でね。昔は違ったんだ。
桜が隠れるって書いて『桜隠』って言ってたんだ。
僕が生まれた頃まではその字だったらしいよ。
だから、僕の母子手帳にはその字で町の名前が書かれていたよ。
当時はまだ桜隠町という小さい町でね。
住んでるのも代々続く地元の人ばかりだったよ。
まぁ、それでね。今でもあるのかな。
桜がやたらと多い公園があるんだけど、ポツンと間が空いてる場所があってね。
そこには昔、樹齢何百年という桜の大木があったんだ。
昔と言っても僕の生まれる10年くらい前の話だけどね。
それで、当時、ある日いきなり桜が消えたらしいんだ。
ん?里深さん信じてないね?
ハハッ。顔に出てるよ。
ホントだよ。新聞にも載ったから、探したら当時の記事が出てくると思うよ。
その桜の大木は地元じゃ有名だったらしくて、もちろん大騒ぎになったってさ。
おや、佐藤さん。ここまでは知らなかったのかな。
まぁ、古い話だからねぇ。
僕も親父に教わったんだ。
当時、その消えた桜のあった場所を見に行ったらしくてね。
詳しく教えてくれたよ。
樹齢が長いだけあって、幹の太い、大きな桜の木だったらしくて、消えた場所には、でっかい穴が空いてたってさ。
しかも、不思議なことに、掘り返した跡が全く無くて、根っこのあった部分が空洞のまま残されていたって言うんだ。
僕も子供の頃に聞いた話だったから、その時は不思議だなぁって聞いてたんだけどね。
高校生の時に肝試しすることになってね。
理由は忘れたけど、その桜が消えた場所に行こうってなって。
…まぁ、よくやる若気の至りだよね。
それで、2人一組でロウソク持って行ったんだ。
何か目印になるものを置いてくるってことになっててね。
僕は自分の名前を書いた物差しを置いてくることにしたんだ。
今と違って街灯なんか無いから、当時の夜道はホントに真っ暗でね。
ロウソクの明かりだけで行く道は怖かったよ。
月も出てなかったしね。
ようやく目的地に到着したんだけど、ホントにそこだけぽっかり地面が空いていて、昼間ならいい花見の場所になるなって、一緒に行ってた友達と言いながら、証拠の品を置いたんだ。
そしたら、その友達がね。何かの穴にハマっちゃって。
片足だけだったんだけど、助け出して見たら、地面の中に穴が空いてたんだよね。
それもさ、こう腕を横にしたような穴が。
僕にはすぐにわかったよ。親父の言ってた根っこのあった場所だって。
だって、穴は桜の大木があった場所から伸びていたからね。
友達はモグラの穴だって怒ってたけど、声は震えてた。
友達にもわかってたんだろうね。
その穴は大き過ぎたんだよ。
ーー僕の腕2本分はあったから。
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ブルルッ。
あー。何か寒くなってきた。
話自体は、桜が消えて、社長が消えた跡を確認した話なんだけど、社長がわざわざ声を低めて語り口調で言うもんだから、すっかり怪談じみてしまったんだよね。
でも、怖いもの聞きたさというか、社長の話だからというか、ついつい最後までしっかり聞いちゃった。
しかも、この話にはオマケがあって、後日、地元出身の先輩と飲みに行ったときに、先輩がこっそり教えてくれたんだけどね。
桜が無くなるのは、昔からたまにあったらしくて、消えるたびに桜をたくさん植えてたんだって。
たから、『桜隠しの村』って言われてたのが、そのまま地域の名称になったんだって。
時代が流れて、桜隠町になって人が増えて、今度はたくさん増えた桜のせいで、桜の名所として有名になったんだって。
そしたら、隠れるって良い字じゃないからって、桜が各所にあるで『桜各』になったって教えてもらった。
家に帰ってからも怖くて、部屋の電気つけたまま寝たわ。
後日、調べたら本当に新聞記事があって、『いったい何処へ?消えた桜の謎』って見出しがついてた。
写真もあって、白黒でわかりにくかったけど、確かに掘り返したようには見えなかった。
それを思い出しちゃうと今の自分の状況に納得しちゃう。
今朝通り抜けるはずだった公園の名前も『おうかく公園』だったし。
何でひらがななのか不思議だったんだけど、こっちの字はまんま『桜隠』だったんじゃないかな。
まさか、自分が都市伝説体験するとはね。
別名通りの街になっちゃったなぁ。
ーー別名、『神隠しの街』って。




