第137話 私って…
…どうして、こんなことになっちゃたんだろう。
いつも通り会社に行くはずだったのに。
なんで異世界トリップしちゃったんだろう。
歩いてただけなのに。
いきなり違う世界にいたってことは、私地球から消えたってことだよね?
それって異世界トリップって言うより、神隠しって言うほうがしっくりくる。
…『神隠し』。
帰れない予感がヒシヒシとする響きだなぁ。
エルフたちも帰れなかったみたいだし。
メルバさんが呼ばれたって話だったけど、それはあんまり知られてない話みたいだった。
なら、帰る方法探したんじゃないかなぁ。
で、結局は帰れなかったってことじゃないかな。
すぐにその話が出なかったってことは、そうなんだと思う。
世界を超えるって、早々出来ることじゃないよね。…帰れないなら、仕事見つけなきゃなぁ。
ん~。働くにしても、私が出来ること…すぐ役立つのって営業と接客くらいかな。
この世界ってアルバイトってあるのかな。私、ここのひとたちに比べたら身体能力がものすごく落ちるんだけど、仕事あるかなぁ。
何で帰れない前提で考えてるかって?
5時間歩いてる時や森にいる間に考えたんだよね。これからどうしようって。帰れるのかなって。
最初は、来た状況から考えて、さっさと帰るのは無理そうだと思ったし、魔法があるかもわからなかった。
転移の話を聞いた時も、召喚陣なんかの特別な帰る方法はないんじゃないかって思った。
そして、メルバさんやフェラリーデさんの微妙な反応…。
私が帰ることについて、意識的に話題を避けてる感じがするんだよね。気のせいじゃないと思う。
だから、帰ることに関しては期待はしないでおいた方がいいと思ったんだよね。
思った以上に親切にしてもらえて、お話を聞けるメルバさんにも会えたけど、帰れるフラグって感じじゃないなぁ。
…しばらくしたら、行方不明の届けが出されるのかな。
たぶん…私は戻れないんだろうなぁ。
別に悲観するわけじゃないけどさ。
…考えてる間に、いろいろ思い出しちゃったんだよねぇ。
私のいた街は桜各市、古くは桜が隠れると書いて『桜隠』、『桜隠し (さくらかくし)の村』と呼ばれていたんだよね。
都市伝説でも有名でさぁ。別名まで付けられちゃって。
社長が新入社員歓迎会の時に話してくれたんだけど、同期も先輩も、地元の人たちは皆知ってたなぁ。
ーー君たち、知ってるかい?
社長の声が思い出される。




