第136話 しばらく1人
「あの、私、どれくらい寝ていたんでしょうか?」
気になるのはそこ。
なんだかすごくよく寝た気がする。
「日が落ちてから2刻くらいですね。夜の9刻を過ぎたところです。まだ日は変わってません。」
2時間くらいか。
そんなに寝てなかったな。
「そうですか。私は魔素酔いを起こしたんですよね?それって、今が落ち着いてたら、もう大丈夫ってことなんですか?」
「ええ。お顔の色も良いですし、魔素も安定されてます。初めての魔素酔いにしては、回復が早いように思いますが、それはクルビスと共鳴していたからでしょう。」
私の疑問にフェラリーデさんが丁寧に答えてくれる。
そっか。クルビスさんのおかげかぁ。
「そうなんですか。じゃあ、後でクルビスさんにもお礼言わなきゃ。」
「照れてそっぽ向きますよ。」
フェラリーデさんが笑いながら教えてくれた。
やっぱり、あの仕草照れてたんだ。
その後、頭痛が無いか、手足が動くかなど、簡単な質問をされた。それも、なんともなかったからすぐに終わって、しばらく横になってるように言われた。
でも、私はフェラリーデさんに頷きながらも、頭の中ではクルビスさんのことばかり考えていた。
(助けてもらってばっかり。何にも返せてないなぁ。)
異世界で最初にあった男性。
力が強くて、優しくて、頼りがいがある。
なのに、押しつけがましいところがなくて。紳士的だし。隊長さんだし。
もしかしたら、王子様的な立場の方かもしれなくて。
…嫌いになる要素がないよね。
リザードマンだけど、嫌だと思ったことないし。
ホントに不思議なことに、嫌悪は最初からなかった。驚いたけどね。
生き残るのに必死だったともいえるけど、落ち着いてからも変わらなかったしなぁ。
(抱っこされても恥ずかしかったけど、嫌じゃなかったし。)
もしこのまま帰れなかったら。
怖いけど、考えないわけにはいかない。
(生活するには、働いて食べていかなきゃいけないんだから。)
これは我が家の家訓に影響されていると思う。
『働かざる者食うべからず。』
子供のころから耳にタコが出来るほど聞かされてきた。
主にあー兄ちゃん、当兄さんにだ。
「いいか。はる。人間生まれてきたら、死ぬまであがくもんだ。生きてりゃ何とかなるもんさ。」
そんなことを当時小学4年生だった私に真面目な顔して言ってたな。私、別に生きることに悲観してなかったし、いじめられてもいなかったんだけどな。何があったんだろ?
今でもよくわからない。
昔から変わった兄ちゃんだったけど、まさか異世界トリップしてたとは。
まあ、異世界行っても、持ち前の行動力でどうにかしてたんだろうけど。
あー兄ちゃんに関しては、心配の二文字が浮かんだことないんだよね。
事故にあって入院したときも、すぐ直るだろうって家族の誰もが思ってて、その通りになったし。
…私の場合は、心配してくれるのかな。
あー兄ちゃんの異世界トリップを知らなかったくらいだし、まだ知られてないかな。




