第133話 ただいまです。
「戻りました。準備が出来たみたいですよ。転移の間へ移って下さい。」
クルビスさんに用を尋ねる前にシードさんが帰ってきた。
クルビスさんはというと、もうこっちは見てなくてルシェリードさんと何か話してる。
…気のせいだったのかな?
首を傾げていると、隣から小さなため息が聞こえた。
「…やれやれ。」
フェラリーデさんが困った顔してる。
美人はどんな顔しても美人だよね。
「…行きましょうか。ヒーリ、立てますか?」
私が見てるのに気付くと、すぐにいつもの微笑みに戻った。
うーん。考えが読めないなぁ。フェラリーデさん、頭良さそうだから。
「っと、まだ無理だろう。」
「えっ。あ、ルシェリード様っ。す、すみませ」
「子供が遠慮などするな。連れて行ってやろう。」
ヒーリ君がよろけたのをルシェリードさんが支える。
いつの間に。
と、いうか、さっきから皆さんの反応がすごいんですけど。
もしかしなくても、ルシェリードさんってかなり偉いのかな?
(この周りが傅く感じ、まるで王様だ。その孫のクルビスさんももしかして…。)
ますます、接し方には気を付けないと。
森に入る前に見た市場の女性たちの視線がすごかったもんなぁ。
下手なことしたら、絶対恨まれる…ブルブル。
関わらないのは無理だから、せめて適度な距離感を保たなきゃ。
「いえ、それは私がいたしますのでっ。」
「リード。そなたには2つの様子を見守る役目があるであろう?1つを抱えていては務まらんぞ。
というか、手持無沙汰でな。手伝わせてくれ。…っと、大きくなったものだ。すっかり重くなったな。ヒーリ。」
目を細めてヒーリ君を見るルシェリードさん。
子供が好きなんだな。可愛くて仕方ないって顔してる。
ヒーリ君は何だかもじもじしていた。
恥ずかしいのかな。えっと、ヒーリ君て70くらいなんだっけ。…感覚おかしくなりそう。
それで、100歳で成人で今70だから…14・15歳?
そりゃ恥ずかしいわ。
でも、ちょっと嬉しそうかな?
シードさんがかなり驚いてたから、体格は大人と同じくらいみたいだけど、ルシェリードさんは軽々と持ち上げてる。子供扱いされてるのがくすぐったいのかもしれないなぁ。
微笑ましい気持ちでヒーリ君を見守っていると、手の中でヒヨコもどきが動き出した。
ふんぞり返った後は、周りを見渡して悦にいってたのに。飽きたのかな?
「プギッ。ピギッ。」
…。何かを全力でアピールされてるんだけど、何言ってるのか全然わかんない。
それとも単に、私には異世界補正なんてものは無いからわかんないだけなのかな?
周りを見渡すと、周りの方々も不思議そうにヒヨコもどきを見ている。
周りにもわからないみたいだ。どうしよう。
「腹が空いてるんだろう。セパのヒナは良く食べる。食べてない時がないくらいだ。さっき袋から出てから何も食べてないんだろう?」
あ、そうかもしれません。
ルシェリードさんのアドバイスに納得して、ヒヨコもどきをポーチに戻す。
すると、予想があったってたらしく、ヒヨコもどきはごそごそとポーチの中に納まった。
人騒がせな…まあ、いいか。生まれたてみたいだし。赤ちゃんと一緒ってことだよね。
袋の口をゆるく閉じると、ルシェリードさんが「では、行くか。」と言い、それを合図に全員で転移の間に移動した。
私はというと、不謹慎にもワクワクしている。
(転移っ。何てファンタジ-っぽい響きっ。さっきも見たけど、今回の方が規模が大きいよね?転移の間ってことは…ま、魔法陣とかっ。)
心が浮き立つままに足取りも軽くなる。
スキップだってしちゃうんだから。
(どんな感じなんだろう?転移初体験~。)
途中、ヒヨコもどきがピギピギ鳴いてたけど、それは聞こえないふりをした。
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結論。酔った。
いえ、確かに魔法陣らしきものが部屋の床一杯に描いてあって、それが光って…。
そこまでは、私も冷静でしたよ?ラノベ的展開にウキウキしてましたよ。
でも、術が発動?した瞬間に、ものすごい揺れた気がして、気が付いたら、見慣れた室内にいました。
でも、私は口に手を当てて、吐き気を堪えるのに必死で、周りなんて見てなかった。
(う。ちょっとでも動いたら、吐きそう…。)
転移は成功したみたいだけど、私だけが乗り物酔いならぬ、転移酔いをおこしたみたい。




