第126話 ヒーリの様子 (クルビス視点)
「俺もですか?」
思わず素で聞いてしまった。
だが、意外だったのは事実だ。連れていくのは、ルシンとハルカだけだろうと思っていたから。
「うん。もしかしたらルシンと同じ治療が有効かもだしね~。
あ、ルー君も来てよ?立ち合いがいるし。シー君も出来たら来てくれる?たぶん、その子の話にもヘビの一族が関係しそうなんだよね~。」
「…うちの一族がですか?」
「なんとなくだけどね~。君がいてくれたほうがいい気がするんだ。」
「了解しました。」
長の言葉を聞いて、シードが胸に手を当てて礼を取る。
シードは長の役割を知ってるからな。長の「なんとなく」はかなりの確率で当たる。聞いておくに越したことはない。
結局、その場にいた全員でヒーリのいる部屋に向かった。
ヒーリは治療のために調書とは別の部屋に移っていた。今は寝台に寝かされている。
「やあ。こんにちは。僕は深緑の森の一族の長。今から、君を治療するからね。」
「っ。」
長がヒーリに声をかけると、、ヒーリが起き上がろうとする。だが、力が入らないのか、寝台の上で少し身じろぎしただけだった。
長がそんなヒーリの手を取りなだめる。
「大丈夫だよ。君には味方がたくさんいるしね。助かる。」
「~~っ。」
ヒーリの目に涙が浮かぶ。安堵したのだろう。
こんな状態になるまで気付かなかったとは…。調書を取った隊士は何をしていたのか。
「幻視の術がかかってますね。軽いものですが、そうとわかって見ないと、彼の様子が正確に認識出来ないようになってます。」
長と共にヒーリの様子を見に行っていたリードがこちらに戻って報告する。
認識の誤魔化しだと?そんな術があるのか。思わず、シードと顔を見合わせる。
「それで、あの坊やの様子に誰も気付かなかったっていうのか?」
「ええ。やっかいな術です。喧嘩していたなら、彼が動けるという前提で見ているでしょう?その前提のままで話していると、彼の様子がおかしくなっても、自分で口をつぐんでるようにしか見えないんです。」
「それで、この有り様か…。」
シードの質問にリードが答え、それに俺のため息が重なる。
やっかいな術があったものだ。話だけ聞いたならまさかと思うが、事実、ヒーリは術にかかり事態の悪化を招いた。
「ヒーリは今どこに住んでいるんだったか…。」
「…確か、西の中央に近い工房にいたはずです。西の中でも北側だったと思います。」
「おい、西の北側って、うちの一族の工房や店が立ち並ぶところじゃねえか。」
「ルシンもそのあたりに住んでるはずだ。偶然ならいいがな。」
「「「っ。」」」
祖父さんの言葉に俺たちは息を飲んだ。
…偶然、だろうか?




