第125話 リードとの再会 (クルビス視点)
「リード。いきなりすまない。長様も、ありがとうございます。」
「いいえ。これが私の仕事ですから。」
「いいよいいよ~。なんか大変みたいだね?」
すでに転移を終えていた2つが俺を出迎えてくれる。
この速さは長の転移だろうな。短時間に何度も使える術ではないはずだが、疲れているようにはまったく見えない。さすがだ。
リードはいつもの微笑みを浮かべて、穏やかに迎えてくれた。事情もろくに説明出来ない状態での急な呼び出しだったのに、嫌な顔1つせず出迎えてくれる。
信用してくれているということだろう。ありがたい。
「ええ。昼に喧嘩がありまして、その片方に70ほどの子供がいるのです。しかし、様子がおかしいらしく、ルシンが言うには自分と同じ状態だと。朝から上手く動けない状態で無理をしたようです。」
「そんな子供が喧嘩を…。」
「…手を出していた。俺が森に行く前に取り押さえたんだ。」
俺の説明にリードが目を見開いて絶句している。
俺も現場に行って驚いたからな。気持ちはわかる。
ルシェモモで手を使った喧嘩は重罪だ。子供の喧嘩でも手が出ることはまずない。
技術者の街だからだろう。『手を大事にしなくてはいけない』と小さな子供のころから教え込まれるからな。
「それは大変だね~。事情は話したの?というか、話せるの?」
「それは俺からご報告します。」
「あ、シー君。お願いできる?」
「よろこんで。その子供は、クルビス隊長に取り押さえられた後は、おとなしく詰め所に連れていかれたようです。その時は自分でしっかりと歩いていたと隊士が証言しています。
ですが、その後、詰め所で調書を取ろうとしたところ、喧嘩をしたことは認めたそうですが、理由を話そうとしませんでした。それで、それ以上調書が進まず困っていたそうです。
そこに、そのドラゴンの少年が「話さないのではなく、話せないからだ」といい、自分と同じ状態だと訴えました。それを聞いて、クルビス隊長がお二方をお呼びするようにと指示を出しました。」
「この子が?」
「こんにちは。リード隊長ですよね?ぼく、ワースって呼ばれてます。」
「こんにちは。ワース。長が森で治療した子というのは君かな?」
「はい。でも、ぼくと同じように動けない子がいるんです。治してあげて下さい。」
「もちろんですよ。それが私の仕事です。」
リードがルシンと微笑ましいやり取りをしている。
それを横目に確認しながら、長の言葉に耳を傾ける。
「なーるほどねぇ。…それって子供の喧嘩?もう片方は?」
「いいえ。片方は個立ちしてます。…ルシンの兄です。」
「はい。僕の兄です。兄も何故か話さなかったみたいなんですけど…。でも、今は話してるみたいです。僕が見つかったからだって。」
ルシンが困った顔で話す。おそらく自分が原因だと思ってるんだろう。
あの後で話し始めた様子からしても、間違ってはいないだろうな。
「橋の所に来た時、詰め所から飛び出してきました。ルシンを見た後、安心したように詰め所に戻って、話始めたそうです。今、調書を取ってます。」
「うーん。そっかあ。ありがと。ディー君、その子の様子見てみようか。」
「はい。」
「あ、ルシンも来てくれる?その子の様子見て、何かわかったら教えて欲しいんだけど。」
「お姉さんも一緒がいいです。声が聞こえたみたいなんで。」
「ハルカちゃんも?」
「えっと…。泣き声がさっきから聞こえてて、気になって…。」
ハルカが自身なさげにつぶやくように言う。
その様子を見て、長が思い付いたように言った。
「じゃあ、クルビス君も来てくれる?君たち2つの方がいいだろうし。」




