第121話 森の出口 (クルビス視点)
長の周りを光の環が幾つも取り囲んでいく。
頭から足元まで10数個の環がかかると、長の身体が一瞬ブレて見えた後に消えた。
展開から発動、そして転移そのものまで、どれも無駄の無い見事なものだった。
母から、長の術式はとにかく早いと聞いていたが、それも本当だったな。
滅多に見れないものを見たことに若干の興奮を覚えつつ、ポムの小道の方へと向く。
急に身体の向きを変えたことに驚いたのか、ハルカが俺につかまってくる。
「すっ、すみませんっ。」
ハルカが何故か謝罪を口にして手を離した。
日暮れまでに森を抜けようとすると、帰りはそれなりの速さで移動するだろうし、別に構わないんだが…。
「…帰りは行きより早く移動するだろう。しっかりつかまっていた方がいい。」
俺がそう言うと、ハルカは頷いてまたつかまってきた。
…何だか様子がおかしい気がする。どこがとは言えないが。
「…ハルカ?」
「おーい。行くぞ。あまり余裕なくなっちまったしな。急ぐか。」
ハルカに聞こうとするが、祖父さんから声がかかる。
確かに、日暮れまで時間がないしな。とっとと森を抜けるか。ハルカに聞くのはその後だ。
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「もうすぐ出口ですね~。」
ルシンが祖父さんの背中でのんきな声を出す。
最初は一緒に走っていたが、すぐに遅れるようになってしまったので今は祖父さんに背負われている。
「ああ。日暮れに差し掛かったころか。まあまあだな。」
「ええ。思ったより早く着きました。」
俺と祖父さんが話してるうちにルシェモモの森の出入り口が見えてくる。
橋のところにシードが立っていた。
長から事の次第を知らされたリードが通達しておいてくれたんだろう。
祖父さんが来るのに、迎えなしでは混乱を招く。
少し緊張しているな。無理もないか。会うのは久々だろう。
俺と共に教育機関に通っていたころはよく祖父さん家に遊びに行ってたが、守備隊に入ってからはお互いに忙しくなったからな。
ルシェモモと森を繋ぐ橋にたどり着くと、シードが膝をついて最上級の礼を取る。
それを祖父さんが制して、立ち上がらせた。
「そういう堅苦しいのはいい。ここじゃ、見とがめるやつなんかいないだろ?
久しぶりだなシード。立派になった。ヘビの長も安心よ。あ奴は元気にしておるか?」
「お久しぶりです。ルシェリード様。
うちの親父殿は相も変わらず元気ですよ。こないだも中央の訓練に混ざってたらしいです。」
シードが苦笑しながら答える。それを聞いて祖父さんが笑い、それにルシンが目を丸くしている。
ヘビの一族の長…アーネスト殿もお元気そうだ。いまだに、中央の訓練に参加されているのか…。
元々長になられる前は、守備隊きっての武闘派で有名だったからな。
今は今朝の件で中央に詰められてるだろう。親父と久々に顔を合わせているんじゃないか?
和やかな挨拶が終わると、シードが気付いたようにこちらを見る。
「で?隊長様はなんでご一緒に?もう調査は終わったんですか?」
「途中で合流したんだ。調査は終わった。それと、こっちのルシンを保護したので、北の医務局に連れて行く。」
「了解しました。後半はリード隊長に聞いてます。メルバ様もお待ちです。こちらへどうぞ。」
シードの物言いに、面白がってるのを感じて、ため息を堪えつつ事実を簡潔に最低限だけ伝える。
シードは胸に手を当てて了承し、案内をし始めた。裏通りを通るんだろう。祖父さんが共にいては目立ちすぎる。
「…っおいっ。待てっ。」
「ルシンっ。」
シードが俺たちの前に出て、飛び出してきた影の前に立ちはだかる。
俺もハルカをかばうように、相手に背を向ける。何者だ?
「あ。兄さん。」




