第120話 転移の術式 (クルビス視点)
「わ~。術が2つ同時展開…。ぼく、初めて見ました~。」
「良く見とけよ?俺が知ってる術士の中でも、これが出来るやつはあいつ含めて3つだけだ。」
ルシンと祖父さんの話に耳を傾けつつ、他の2つとは誰なのかと思う。
同じ特級の術士となると…。
「これが、転移…。」
ハルカの声に、思考を中断する。
そうか、ハルカは初めて見たんだったな。
「そうだ。長の足元に展開しているのが、移動の術式。胸元に展開してるのが連絡用の術式だ。
転移するには場所が決められていて、移動する前に連絡しておく必要がある。今は連絡してるところだ。」
「ああ、事故の防止のためですね。同時にあちこち転移したりしたら危ないですもんね。」
俺の説明にハルカから打てば響くような答えが返ってくる。
初めて見た術式にこれほどの理解…。やはり彼女は聡明だ。
「ああ。だが、2つを同時に展開できる術士はめったにいない。これはとても珍しい光景だ。」
「そうなんですか。メルバさんってすごいんですね。」
術式の展開が進むのを眺めながら、ハルカが感心したようにつぶやく。
長の名前を聞いていたのか。初対面の者には滅多に名乗らない方なんだがな。
そんなことを話してるうちに連絡用の術式が展開を終える。
連絡がついたようだ。早いな。連絡の術式は距離に比例して時間がかかるものなのだが、今のは通常の半分くらいじゃないか?
「じゃあ、先に行くね~。」
明るい声と共に足元の術式の輝きが増す。
発動には特定の言葉が必要なはずだが…。長に関しては例外だと聞いていたが、本当だな。




