第119話 街へ (クルビス視点)
「あーちゃんの。妹さんがふたりいるって…。」
「あ、たぶん。私と妹のことだと思います。小さいときから一緒に暮らしてたので、兄妹みたいなものなんです。」
「…呼び方は?」
「?ああ、私が「はる」で、妹が「たまき」ですけど…。」
「あーちゃんの妹さんだ…。」
幾つかの質問の後、長がポツリとつぶやく。
確信が持てたようだ。まさか、ハルカの兄君が長と知り合いとは…。世の中、何が起こるかわからないものだ。
「あれから2000年も経ったのに…。時間の流れが違うんだね。」
「にせんねん…。」
「あーちゃんは元気?彼、いっつも元気だったから、その印象しかないんだけど。」
「ええ。いつも仕事で飛び回っています。」
「仕事?あーちゃん何やってるの!?」
「あー。盛り上がってるとこ悪いんだが、その続きはルシェモモでも良くないか?」
話の弾む2つに祖父さんが声をかける。
確かに、そろそろ移動しないと森の中で日が暮れてしまう。ハルカも長も夜目があまり利かないだろう。
「あ、ご~めん。ごめん。そうだね。この話は街でも出来るし、もう日も暮れちゃうね~。」
「よし。じゃあ、移動すっか。クルビス、俺も1度北に行く。ルシンのこともあるしな。」
祖父さんに言われて頷く。
ルシンの話を聞いた後では、このまま別れるわけにはいかないだろう。『世界の意志』絡みとなると、各一族の長に通達しなくてはいけないからな。
「ああ。そうだね~。」
「他に知らせる前にお前と詰めなきゃならん。…北なら安全だしな。」
「そうだね~。ディー君いるし~。キィ君は中央らしいから、あの辺で変なことにはならないだろうしね。」
「おう。出るとき会った。中央周辺はまかせといたから、大丈夫だろ。メラも今は落ち着いただろうしな。」
「うんうん。じゃあ、街に行こうか。」
母さんも仕事がひと段落しただろうな。母とキィがいれば、大抵のことは大丈夫だ。
父もこの非常時だから、母のそばにいるだろうしな。
立ち上がるハルカに手を貸し、そのまま抱き上げる。
ハルカは移動と聞いた時からわかっていたらしく、今回はおとなしく俺に抱えられている。
「あ~。僕は一足先に北に行って、ディー君に事情説明しておくよ~。
僕1つならすぐだし。ルー君と僕が一緒にいたら、何事だってなるでしょ~?」
「そうだな。」
「お願いします。」
もっともな話に祖父さんと頷いて、先触れを任せることにする。
一族の長が顔を合わせるのは、中央以外では祭りか祝い事の時くらいだからな。
非常時でも集まるだろうが、それが中央でなく北でとなると…。住民が大騒ぎするのが目に見えるようだ。
祖父さんだけなら、集落を見に行った帰りだと言っても通じるだろう。
「んじゃ、先に行くね~。」
いつの間に描いたのか、長の周りに転移の術式が展開していた。
やはり『特級』の術士は違うな。




