第118話 ハルカの兄 (クルビス視点)
「どうかな?」
ハルカを見ると、呆然としている。
魔素が揺れているな。ハルカの手を握って、魔素を落ち着かせる。
ハルカが俺を見るが、その目には力があった。
大丈夫そうだな。
「クルビスさん、ありがとうございます。はい。私の故郷は日本という国で、私は日本人です。」
ハルカが長をまっすぐ見据えて答える。
長は大きく頷いて、何かに納得したようだった。
「そっか~。ああ、なんで僕が「ニホンジン」って知ってるかって言うとね。前の世界にいた時、ヒト族の友達がいたんだ。彼が「ニホンジン」だって言ってたから。言ってることとか、髪の色とか、雰囲気が似てるな~って思ってたんだよ。『平均寿命』なんて、僕たちエルフの元いた世界では誰も気にしなかったことだから。」
「…その人、どうなったんですか?」
「帰ったよ。故郷に。向こうには『魔法』があったから。彼が帰ってすぐにこっちにきちゃったから、もし、また来てたとしても…もう会えないね。」
ハルカが何かに気付いたような顔で神妙に長の話を聞いている。
『まほう』か…。異世界の術式だろうか。リードは知っているんだろうか。
「…その人の名前は?」
あったこともない男の名が気になるのか?
おそらくハルカは自分と同じような境遇だった長の友達に共感を抱いてるんだろうが…。面白くない。
「名前を聞くだけです。」
ハルカにたしなめられてしまった。
…顔に出ていたか?
「福井当 (ふくい あたる)。あーちゃんだよ。」
「っっ。…口癖は」
「「私は運がいいからな。」」
ハルカと長の声が重なって、ハルカはそのまま両手を口に当てて、目を限界まで見開いている。
この仕草と顔は知っている。俺と会ったときと同じだ。
かなり驚いてるんだろう。
さっき長と言葉が重なったことといい、ハルカの知っているやつなのか?
「あーちゃんを知ってるの!?」
長が前に乗り出して聞いてくる。
それにハルカは口に手を当てたまま、何度も頷いて同意を示した。
「…兄です。正確には従兄弟ですが。」
ハルカの発言に長が口をポカンと開いて絶句している。
これはまた珍しい光景だ。リードに言っても、信じないだろうな。絶対。




