第116話 口上の理由 (クルビス視点)
「で、まあ、この2千年程、世界の存続のためにいろいろお仕事してきたわけなんだけど、全体の数が増えたでしょ~?僕たちだけじゃなく、獣も鳥も魚も~。
正直、手が足りなくなったんだよね~。それで、もう1つってことになったんだ~。それがルシン。」
ルシンは知ってたのか?
ルシンを見ると、にこにことしながら長の話を聞いていた。
…知っているようだな。世界の意志にすでに通達されていたんだろう。
「どうしたって僕もいつかは寿命が来ちゃうし、適正のある子ってなかなか生まれないからね~。
もう1つっていうのも、ずっと前から世界に働きかけてて、やっと生まれたんだよ~。でも、それがルシンだっていうのは知らなかったんだけどね~。世界って不親切だから。
生まれたっていうのは教えてもらえてたんだけどさ~。ルー君にはその話したでしょう~?」
「…もしや、お前の弟子が生まれたってやつか?」
「そうそう。」
「わかるかっ。どうして、お前はいつも肝心要なところが抜けてるんだっ。」
まったくだ。それに世界ももう少し情報をくれてもよかったのでは。
「生まれても、長の近くにいなければ意味がないでしょうに…。」
思わず俺が疑問をこぼす。
すると、意外なところから返事が返ってきた。
「あ、それ、ぼくがお願いしたんです。」
言い合う祖父さんと長にルシンがおずおずと手を上げて言う。
願った?世界の意志にか?あれはこちらの思惑など意にも介さないと聞いているが。
長も初耳だったのか、驚いた顔で固まっている。
この方のこんな顔は珍しいな。リードに言っても信じないだろう。
「えっと。ぼく、このことを知ったのが10歳くらいで。大事なことなんだっていうのと、他の誰かに簡単に話せないのはわかったんですけど、後はもう1つの役目の方のところに行かないといけないことくらいしかわからなくて…。
それで、家族と離れるのが嫌でちょっと待ってもらったんです。「ぼくはまだ小さいから一人で勝手に移動できません。子供が勝手なことをしたらすぐ死んじゃいます。もう少し大きくなってからなら従います。」って。
そしたら、なんだか許してもらえて。だから、もう1つの役割の方が長様だって知りませんでした。」
「あ~。じゃあ、さっきわかったんだ?ぼくみたいに。」
「はい。助けてもらったお礼を言おうとしたら、突然…。驚きましたけど、もう1つの方が長様だってわかったら、自然に言葉が出てきました。」
成る程。それで先程の口上になるわけか。
やっと理由がわかったが、以外過ぎる事実に頭がついていかん。




