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トカゲと散歩  作者: *ファタル*
本編4森の中へ
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第114話 礼 (クルビス視点)

「う~ん。ハルカちゃんもいるし、そろそろ日が暮れちゃうから一旦街に戻らない?僕もこのまま一緒にいくからさ~。」



「里はどうするんだ。」



「だ~いじょ~ぶっ。もう知らせてあるから。」



「そうか。何処泊まるんだ?」



「ディー君とこだよ~。ハルカちゃんにいろいろお話聞きたいしね~。」



「あ、はい。私もまだお話聞きたいです。」



 まだ?…そういえば、共鳴のことといい、俺たちが崖を上るまで何か話していたようだな。

 話していたのか、吹き込まれていたのかわからないが。



 おかしなことを吹き込まれる前に止めなくてはいけないな。

 リードにも同席してもらおう。



「ワースも今夜はディー君とこにしといたほうがいいかな~。治療したけど、経過見たいし。」



「…そうだな。ルシン。今日は念のため北の守備隊の医務局に泊まっとけ。明日、お前の兄貴に迎えにいかせるから。」



「はいっ。」



 ルシンが元気よく答える。嬉しそうだな。

 守備隊は街の子供たちの憧れだ。北地区のとはいえ、守備隊本部に泊まれるのは子供にとってすごいことなんだろう。



 祖父さんも長も微笑ましげに見ている。

 ルシンは能力が高そうだし、いつか、この子も守備隊の隊士になるかもしれない。



「あ、そうです。ぼく、まだきちんとお礼いってませんでした。」



 そう言って、ルシンが俺と祖父さんに向き直り膝をついて頭を下げる。



「危ないところをお助けいただきありがとうございました。このご恩、幾年幾月が経とうとも決して忘れません。我が名はルシン。ドラゴンの一族のものです。」



 俺と祖父さんが居住まいを正して、胸に手を当て、礼を受ける。

 ドラゴンの一族は義理堅い。個体自体が強いため、助けられることがまずないせいだろうと言われているが、1度受けた恩は決して忘れないそうだ。



 今回の場合、ルシンを助けた順に礼を述べる。

 次は長だな。



「…深緑の森の一族の偉大なる長様。危ない所をお助けいただきありがとうございました。我が名は『陽光』のルシン。これから幾たびかあなたと共にあるものです。このご恩、この身が朽ちて新たな命となろうとも決して忘れはいたしません。」



 何だとっ。俺と祖父さんがルシンの口上にギョッとして腰を浮かしかける。

 だが、深緑の森の長がそれを留めた。ルシンに対してひざまずき、胸に手を当てて口上を述べる。



「…長きに渡り待ち続けた次代の誕生嬉しく思う。我は深緑の森の一族が長、遥か遠き世界より渡り来し者、世界の真実を知る者、名をメルバ。未だその身の力を知らぬ者よ。我が知識と技術を受け継ぐべき時まで健やかに育て。」



 …なんだこれは。この口上はいったい…。

 祖父さんを見ると、目を見開いてルシンと長を見ている。祖父さんも知らないのか。



 では、これはいったい…。

 俺たちが茫然としていると、ルシンが今度はハルカの方を向いて礼を取る。



「えっ。私は…。」



「…ハルカ。一族のしきたりに則ったものだ。受けてやってくれ。」



 ハルカが慌てて止めようとしたので、未だ立ち直ってはいないが、ドラゴンの一族の礼を受けるように言う。彼女は知らないからな。

 俺の言葉に頷いて、ハルカは座りなおして、おとなしくルシンの口上を待つ姿勢を取る。



「稀なるお方。あなたのおかげで私は命を繋ぐことが出来ました。このご恩、あなたの継嗣が尽きるまで忘れることはありません。我が名は『陽光』のルシン。あなたの盾となり、御身をお守りするものです。」



これも聞いたことのない口上だ。

継嗣が尽きるまでとは…。



「…丁寧なごあいさつ痛み入ります。今日の朝、異なる世界より参りました。ヒト族の娘で里見遥加と申します。遥加が名で里見が家族名です。どうぞハルカをお呼び下さい。」



 ハルカの返礼にさらにギョッとする。ルシンにそこまで言わなくともっ。

 顔を上げたハルカが目で俺を止める。…わかってて言ったのか。自分で決めたんだな。



 俺が落ち着いたのを見て、祖父さんも長も肩の力を抜いていた。

 正式な挨拶は重要な行事に使われる。ドラゴンの一族の礼の口上はまた違うが、ほとんどの一族では正式な名は伴侶を得る時に聞くものだ。



 それを、違うとわかっていても目の前で行われたんだ。動揺もする。

 ハルカは知らないでやったんだろう。…俺とリードに対してもとても礼儀正しかったしな。礼には礼を返すのはもともとの性分か、故郷の習慣かもしれない。



「…ルシンは遥加ちゃんがここに来たこと知ってたの?」



「はい。何日か前にお姉さ…ハルカさんが森で困ってる姿が浮かんだんです。変わった格好をしていたし、どこか遠くからきたのかなって思ってたら、次の日にいきなり森に出たハルカさんの姿が浮かんで、もしかして、深緑の森の一族の方々と同じなのかなって…。」



「誰かにそれを言った?」



「いいえ。何時のことかわからなかったし、言わない方が良い気がして、兄にも言っていません。」



「そう。良い判断だったよ。これで彼女は安全だ。」



「…話がさっぱり見えんのだが。」



 祖父さんの困惑した言葉に俺も頷く。

 是非、説明してもらいたい。

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