第113話 先読み (クルビス視点)
「先読み」とは、見えないこと、知りえないこと…つまり未来のことを知る能力のことだ。
その方法も知りえる範囲も個体ごとに違う。
俺の知ってる「先読み」の能力持ちたちも、それぞれの方法で限られた範囲のことを知ることが出来る。音でその物事の先が良いか悪いかだけを知るというものと、夢で極近い未来の出来事を知るというものだ。
ルシンの先程の話から察するに、自分自身に関わることを知ることが出来るようだ。「カン」と言っていたのは、無意識で情報を得ているんだろう。
祖父さんと長の様子からして、外れてはいないと思う。
まだ使いこなすことは出来ないようだが、それを自分の頭で補っている。とっさに逃げてきたというのが、その証拠だ。
賢い子だ。それが出来ない能力者の方が多いというのに。
状況というものは常に変動しているため、その先読みが完璧に当たることはあまりないと言われている。現状で有り得る未来のうち、最も可能性の高い未来がわかるものらしい。
個体によっては、可能性の順に幾つかの未来を同時に知ることが出来る場合もあるそうだが、それはかなり珍しい例として知られている。
だから、刻一刻を変化する未来を知るには、知り得た情報の取捨選択とそれを正確に伝えることが重要だ。
先読みの能力の要とも言える。
俺と同じ黒一色の体色を持っていた父方のひい祖父さんも先読みの能力を持っていたそうだ。それも珍しい、同じ内容の未来を継続して知りえる能力だったという。
その能力のおかげで、トカゲの一族は『大崩壊』と呼ばれる世界全体の魔素の大半が吹き飛ばされるという未曽有の危機を乗り切り、ドラゴンの一族と協力してルシェモモの創建にいち早く加担し、一族の安全な住処を確保したそうだ。
ルシェリードの祖父さんから聞いてる限りでは、父方のひい祖父さんは情報の読み取りにも長けていたらしく、自身の先読みが示す未来を読み違えることはなかったらしい。
「いいか?クルビス。お前は能力が高い。他のやつよりたくさんのことが出来る。…だがな、出来ることを当たり前と思うな。
能力というものは個体ごとに違い、使いこなせて初めて価値がある。だが、それは使わなければどんどん出来なくなっていくものなんだ。だから、自分の能力を知っておけよ?そんで、使いこなす努力は惜むんじゃあない。
お前はトカゲの一族の次代だからな。出来ない、知らないでは済まないことがたくさんある。一族全ての命運を決めなければいけないこともあるかもしれん。」
「お祖父さまは決めたことがあるのですか?」
「ああ、お前のひい祖父さんと一緒にな。だからルシェモモを作った。
あいつはすごかったぞ。自分が知ることの出来る未来を正しく読み取り、そのための対策を常に考えてるやつだった。どんな時も決してあきらめず、いつも自分に出来る限りのことをしていた。
それに比べて、俺は適当にやってたからなあ…。
よく言われたよ。「能力の持ち腐れだ。」ってな。そんな言葉、あいつと会って初めて知った。ドラゴンってのは、世界に影響があり過ぎて、能力をあまり使いたがらないものだったからな。」
昔、課題をさぼっていた俺に、ルシェリードの祖父さんが楽しそうに話してくれた。
誰もが敬うルシェモモの創始者、ドラゴンの一族の長が、俺にそっくりだというひい祖父さんを褒めちぎる。それが俺には衝撃で、ひい祖父さんに憧れを抱いたものだ。
ひい祖父さんほど先読みを使いこなす能力者にはあったことないが、ルシンは努力次第でそれに近づけるかもしれん。
懐かしいことを思い出しつつ、ルシンの話を思い返す。
まだ未熟なルシンがそれでも危険と判断したことがルシェモモの街にまだあったとしたら…。
急いで街に戻らなければならないのかもしれない。




