第112話 ルシンの話 (クルビス視点)
「ここに来たのは、お前のカンか?」
「はい。このまま街にいちゃだめだと思って、嫌な方向から真っ直ぐ反対に逃げてきたんです。でも、羽があんまり上手く動かなくて、すぐにバテちゃって、森に入ったら低めに飛んだんです。そしたら…。」
「出られなくなった?」
祖父さんがルシンの言葉を拾う。
祖父さんはカンと言ってたな。もしかして…。
「っはい。上がろうとしたら結界にぶつかって。それで、森の中を進むためにトカゲ型になろうと思って、ポムの実を食べたんです。…一杯なってたから、1枝くらいいいかなって。…ごめんなさい。」
だんだんルシンの声が小さくなっていく。
ポムの木が保護されていることは知らないようだが、勝手に採って悪いことをしたとは思ってるんだな。
賢い子だ。自分に起きたことを俺たちにちゃんと説明出来てるし、やったことの善悪をきちんと理解している。
気になるのは、ルシンの言った「逃げてきた」だ。何から逃げなくてはいけなかったのか。
ルシンの年では、まだ森に入る訓練は受けていない。だから、こんなことになったわけだが…。
知らない場所に逃げ込まなくてはいけないほど、何を恐れていたのか。
「よく判断した。偉いぞ。ただ、ポムの木を傷つけたのは問題だ。ポムの木は、小枝1本でも勝手に折ることは出来ない。」
「えっ。」
祖父さんがルシンの頭をなでながら、言うべきことを言う。ドラゴンの一族の長の顔だ。
考えて行動したことは評価出来る。街中で本体のままいたら、大騒ぎになっていただろう。だが、子供でも許されないことがある。そのことは知っておくべきだ。
「ルシェリードさまっ。ぼく、どうなるんでしょうか?」
「まだ、決められぬ。今の話だと、お前が本体に戻るはめになった原因があるようだ。少なくともそれを調べてからだな。ただ、自分のしたことは覚えておくように。」
「…はい。」
「説教はここまでだ。…ポムの実を食べたのは良い判断だったな。だから、身体がもったんだろう。見つかって良かった。」
祖父さんの魔素がルシンを包む。祖父さんがルシンの頭をなでながら「実は美味かったか?」と聞く。
ルシンはホッとした顔で「はい。おいしかったです。あんなに甘いなんて思いませんでした。」と祖父さんに笑顔で答えていた。
ルシンは祖父さんに任せておけば大丈夫そうだな。
2つの様子に安堵しつつも気になることが頭に浮かんだ。
『ここに来たのは、お前のカンか?』
もしかすると、ルシンは「先読み」の能力者かもしれない。




