第111話 金・銀の魔素 (クルビス視点)
「さ~て、どこから話そうか~。」
祖父さんと俺とハルカの3つが休憩を取った場所まで移動し、そこに適当に円座で座り込んだ。
並びは、長、祖父さん、ルシン、ハルカ、俺、そして長という順だ。
「えっと、私とルシン君の相性が良いってどういうことなんでしょう?それでルシン君元気になったみたいですけど、みなさん驚いてましたよね?」
「ああ。そうだね~。じゃあ、まずはそこから~。
そもそも、魔素ってどういうものだろう。ワース知ってる?」
「えっと…。「存在するために必要な力」ですよね?学校で習いました。」
「そうだね。だから、無くなったらその個体はこの世界から消えてしまう。つまり、魔素は「魂の力そのもの」なんだよね~。
魂の力だから、個体差が出るし、資質が強さになって現れる。もちろん相性だって出てくる。
この相性っていうのが、結構影響大きくてね~。さっきも僕がワースを治療しようとした時、術が途中で跳ね返されちゃったんだ。」
「跳ね返す?」
「うん。あ~でも、たまたまだからね?
ワースと僕では色が『金』と『銀』でしょ?だから、合わなかったみたいなんだ~。
金・銀はちょっと特殊でね~。色に限らず、合う魔素と合わない魔素がハッキリしてるんだよね~。魔素が合わないと、術が利かなかったり、酷いときは近くにいるだけで魔素酔い起こして倒れちゃうんだよ。僕とルー君は大丈夫だけど、『金』同士で魔素が合うって珍しいんだ~。
で、ワースとハルカちゃんの場合はすっごく相性が良かったんだ。近くに来たら声が伝えられるようになったくらいね~。だから、ハルカちゃんの魔素で治療してみたんだけど~、効果が倍増しちゃってね~。ど~んどん治っていくから驚いたよ~。普通、こんなに短い時間で完治なんてしないからさ~。それで、皆驚いてたんだ~。」
長の説明にそれぞれ納得する。成る程な。金・銀の色持ちは魔素が特殊らしく、広範囲に影響を及ぼす代わりにその個体自体への干渉がひどく難しいらしい。
だから、金・銀の色持ちを子に持った親は、我が子と相性の良い術士を探し回るのだと聞いたことがある。
ルシンはハルカがいて本当に幸運だった。
そして、ハルカの魔素を扱えた長がいたこともだ。
「運が良かったな。ハルカとメルバがいなきゃ、ヤバかったかもしれん。」
祖父さんがルシンの頭をなでながら、しみじみとつぶやく。
ルシンも祖父さんの言葉に真剣な表情で頷いていた。自分の特殊さは知っているんだろう。
「…あの、じゃあ、声って普通は聞こえないものなんですか?」
ハルカが恐る恐ると言った風に聞いてくる。
そうだ。ハルカはこの世界の知識がほとんどないんだった。
「そうだね~。術式を使って声を届けることはあるけど、魔素だけでってのは普通ないかな~。
あ、ハルカちゃんの場合、キグスの糸を持ってたっていうのもあるんだけどね?あれは魔素を通し易いから糸電話の役割をしたんだよ~。ワース、ハルカちゃんの糸って、君の肩にかかってたキグスの布のやつだよね?」
「はい。途中でどこかにひっかけちゃったみたいです。寒いからって思って慌てて持ってきたんですけど、役に立ちました。」
「慌ててた?」
「…何か急ぐ理由があったのかな~?」
ルシンの答えに祖父さんと長が反応する。
なんだ?何かあったのか?
「…朝起きて、しばらくしたら身体がトカゲ型を保てなくて。いきなり本体に戻ろうとするから、ぼくビックリしたんです。このままここにいたら危ないって思ったんですけど、もう本体に戻りそうで。うちが壊れるって思ったから、急いで着替えだけ持って窓から飛び出したんです。」
今朝の話か。だが、おかしいな。「いきなり」?しかも、起きて「しばらく」してから…。
弱って本体に戻るときは、自分で意識して出来るはずだ。いきなり本体に戻っては、場所によっては危険だからな。それに、朝の低体温時が一番危険だったはずだから、本体に戻ろうとするならその時だろうに…。
詳しく聞いてみたいが…。
祖父さんと長には心当たりがあるのか?




